『一命』を観る。滝口康彦『異聞浪人記』を原作にした三池崇史監督の時代劇。同じ原作をもとにした小林正樹監督による『切腹』は未見。やむにやまれず狂言切腹を申し出た浪人とその義父の辿る末路を描く。困窮した武士が大名屋敷を訪れ封建制のシステムにすり潰されるところから始まり、その経緯が語られていく物語の構造はつまり『壬生義士伝』と同じだけれど、凄惨さは共通しているとして、こちらには救いというものが全くないのでトーンは一貫して暗い。光量が極端に落ちる場面が結構あるのだけれど、話の暗さはそれを上回るので、いつもは気になる画面の暗さがかえって気にならないほどである。
瑛太が竹光で切腹をする羽目になる冒頭の凄まじさもさることながら、義父を演じる市川海老蔵の津雲半四郎は若すぎるというハンデをものともしない存在感で、このひとの役者としての仕事をそれほど知っているわけではないけれど、なかなかのものだと感心したのである。まず、声がいい。役所広司と表情のやりとりをするシーンがあるけれど、この奥行きもとてもいい。そして瑛太の妻を演じた満島ひかりもさすがの熱演で、総じて役者のレベルが高いので見応えがある。