『怒り』を観る。実在の事件と登場人物の実存を思わせる吉田修一の小説を、李相日監督が異様に分厚い役者陣によって何だかすごい映画にしている。冒頭からの不穏な通底音は141分、途切れることなく、ついには独立したエピソードが共鳴し始めるので、それぞれの悲劇に因果関係がないことにも違和感がない。シェパードトーンの緊迫に耐える強度をもつ邦画は滅多にあるものではないし、役者の仕事の密度の高さにはただ感心したのである。2016年には多くの傑作が公開されたけれど、いまさらいうまでもなく、これもそのひとつであろう。