『聖の青春』を観る。東の羽生、西の村山といわれ、難病と闘って29歳で亡くなった村山聖についての大崎善生によるノンフィクションを原作とした映画で、松山ケンイチがロバート=デ・ニーロばりの増量をして主人公を熱演している。羽生善治を東出昌大が演じこちらも迫真で、演技派とも思っていなかっただけにその仕事には感心する。安田顕が出演しているのもうれしい。
序盤、路傍に倒れ込んでなお将棋会館での対戦に向かう村山、これを助ける電器屋のオヤジが目にする将棋指し達の異様にもみえる光景や、将棋研究でなく愛読の少女マンガを読み耽って自身の祝賀会に遅刻するエピソード、さらには仄かに好意を寄せているらしい古本屋の娘との短い交流から人物像は立体的に立ち上がっていく。村山が取り置きを頼んでいた『イタズラなKISS』もまた、作者の多田かおるの急逝によって未完に終わった傑作であるからには、実話と虚構を取り混ぜた脚本の意図は明確で奥行きを生んでいる。「東京やったらすぐ見つかると思いますよ」
『3月のライオン』で二階堂その人を演じていた染谷翔太が芽の出ない兄弟子として出演していたり、何だか縁を感じる配役もあるのだけれど、このひとの生がのちに遺した影響は単に将棋界の話にとどまらないというのはわかる気がする。