トランプが難民の受け入れの凍結とイスラム7カ国から市民の入国を禁止する大統領令に署名したことにも驚いたが、NSCの構成を見直して国家情報長官や統合参謀本部議長を常任出席者から外した挙句、スティーブ=バノンを国務長官と国防長官と同列にしたとあっては、Amazonでディストピア小説が売れているという話も全く笑えない。トランプの言説は選挙戦略であり、合衆国大統領に就任する以上はビジネスライクに職務を遂行するに違いないという、当時でさえ脳天気というほかない希望的言説もあったはずだけれど、就任後10日を経たずしてこれでは世界の終末が近いという言葉のほうによほど説得力がある。まして、悪名では筋金入り揃いの閣僚たちがまだ始動すらしていないのだから、アメリカの社会システムの破壊は序の口と考えなければならない。
予想を上回る進度でことが進むので、理念を蔑ろにすることにかけては先達である安倍晋三がうかうかと小者にみえてしまうほどだけれど、なに、本邦も特に負けているわけではないという点については忘れてはならぬ。難民受け入れ凍結の大統領令は通例のリーガルチェックのプロセスを経ていないということだけれど、これは内閣法制局が機能を喪失したこの国においても同じことだし、難民についてはそもそも受け入れをしていない以上。
アメリカの弱体化という観点からはあまりにも効果的な手が次々と打たれるものだから、ロシアの暗躍があったとしても不思議はないとさえ思ってしまうのだけれど、500億ドルとも言われるソチオリンピックの開催費用から不正に流用された莫大な資金がこの目的に使われているとすればさらに腑に落ちて、最近は急速に陰謀説に傾いている。おそるべしプーチン。そして公的部門から多額の資金を引き出す口実にオリンピックが使われている構図はもちろん東京においても同様で、五輪はその歴史的使命を終えたばかりでなく、積極的に社会を蝕む仕組みと成り果てているのではあるまいかと、義憤とともに妄想は広がる。
さらに驚いたことに、ドナルド=トランプは就任と同時に4年後の大統領選挙の候補者として届け出をしたそうである。これにより、たとえばNPOが名指しで批判することは、選挙活動への関与と見做されるという点で難しくなったという話まであって、その意図がなんであれ、この者たちはただの馬鹿ではないし、それなりに本気だということに留意する必要がある。戦いは長く、かつてないほど不毛なものになるのではあるまいか。