土井監督がプロデュースまでやっているのだから面白いだろうという期待はもちろんあらかじめあるにして、まず銀座、長野ナンバーの車で越える碓氷峠、軽井沢までの空間設定はまったく遅滞なく、これにタランティーノばりの意味なし会話までありながら、主な舞台となる別荘でカルテットが最初の音を合わせるまで7分。会話劇として最初のピークとなる唐揚げレモントークまで11分。この手際だけでも感心したけれど、そこからの語りも濃密で、すべてのシーンから意味を汲まずにはおられない緊張感がまず気持ちいい。壁のポスターの剥がれ方にも意味がある。ツルヤから、いつかイオンモールというセリフの凄みよ。だいたい、後輩ってどういう人物だと思います?
脚本は稠密でありながらわかりやすく、カメラが軽井沢を写しとっているのも見事で、風の舞うシーンには心底、唸った。この軽井沢はきちんと演出するからこそ現出する軽井沢で、画面の中にしかない。表情というには微細にすぎる役者の仕事の細やかさもどうだ。
カルテットで演奏するのがなぜ『モルダウ』なのかを考えるのも楽しい。チェコ語のヴルタヴァがドイツ名でモルダウであれば、きっと名前とアイデンティティに関する仕掛けがどこかで顔を現すに違いない。