いつも年末になるとその年に観た映画を振り返るのだけれど、今年はその数もすこし少なくて130本弱というところ。年の瀬も押し迫って『ベイビー・ドライバー』を観ることができたので、もうそれでいいんじゃないかという気がしなくもないけれど一応、振り返っておきたい。
この世界の片隅に
2月になってようやく、近くの映画館で2週間の限定上映があって『この世界の片隅に』を観に出かけたわけである。本来なら2016年の一本に入るはずだけれど、2016年というのは奇跡のような当たり年で、この他にも『シン・ゴジラ』や『逃げるは恥だが役に立つ』があったというのは、やはり凄いことである。この時期、テレビでは毎週『カルテット』を楽しみにしていて、年が明けても良き年の余韻を楽しんでいたようなところがある。
ミッドナイト・スペシャル
実はNetflixを導入したのは年の後半で、ジェフ=ニコルズ監督のこの映画は配信で観た。『テイク・シェルター』に引き続いてマイケル=シャノンの主演ということなので、ちょっとハードルが高かったのだけれど、そこは配信の気楽さがあり、キルステン=ダンストが顔を出したあたりからはストーリーに引っ張られる感じで。パラノーマルなストーリーを前面に配しながらその実、親子の別離について普遍的なドラマを描いているマニアックな文脈のつくりかたがジェフ=ニコルズらしくて実にいいと思ったものである。
COP CAR/コップ・カー
『スパイダーマン:ホームカミング』は年末に急いで観たものだけれど、監督としてはジョン=ワッツの台頭してきた年といえ、『クラウン』と『COP CAR/コップ・カー』の2作から、いきなりマーベルの大作の監督を任される勢い。特に『COP CAR/コップ・カー』は一体、どこに転がっていくのかという話を最後まで転がし続けて感心するような語り口であり、トラヴィスとハリソンという子役への演技のつけ方とディテールの演出の巧みさには特に感心したものである。制約の多いマーベルの方は、それに比べると7割くらいの出来ではあるまいか。
パッセンジャー
『パッセンジャー』のストーリーには昔懐かしいSFの雰囲気があって実は結構、好きである。5,000人を冷凍睡眠させたまま120光年の旅をする豪華客船という、ある意味で牧歌的な設定には今日では滅多にお目にかかれるものではない。そして、主演のクリス=プラットは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で観ておけばいいにして、ヒロインのジェニファー=ローレンスの美しさはもしかしてこの一瞬のきらめきかもしれないと思わせる鋭どさがあって、そのオーラに感心する。女優として人気があるのも当然ではあるまいか。
メッセージ
今年はドゥニ=ヴィルヌーヴ躍進の年でもあって、とはいえ『ブレードランナー 2049』は未だ観ていないのだけれど、まず『ボーダーライン』でその才能に触れ『メッセージ』でも大いに感心したという流れ。
原作となったテッド=チャンの『あなたの人生の物語』とはだいぶ筋書きを変えながら、サスペンスとしても盛り上げている。このあたりは『コンタクト』におけるゼメキス監督の仕事の相似形になっていて、テーマからしてある種のオマージュになっているのかも知れん。
それはともかくテーマ自体、映像化の難易度が高いものなのだけれど、これを見事に消化していて、ドゥニ=ヴィルヌーヴ監督の実力の一端を見せることにもなっている。その切なさの表出が実にいい。
マインドハンター
Netflixの導入により取りこぼしの映画もよく観るようになったけれど、遠ざかっていたドラマシリーズにもちょっと手を出し始めて、Netflixオリジナルの『マインドハンター』はそのクオリティの高さに唸ったのである。いわゆるテレビとは違って、万人受けを排した結果として非常にハイコンテキストな作品となり、つまりわかる奴だけわかればいいという仕上がりなのが好ましい。こういう小説はあっても、映像化されたものはあまり例がなかったのではあるまいか。
マスター・オブ・ゼロ
そして同じくNetflixオリジナルの『マスター・オブ・ゼロ』も都合2シーズンをほとんど一気に観たものである。こちらは筋書き自体がハイコンテキストというより、これまで隠蔽されてきた社会的な文脈に敢えて切り込んでいく主張がみえて、そのスタンスにまず感服したものである。そして映像作品自体としても毎回、凝ったところが多く結果、延々、観続けることになるわけである。『マスター・オブ・ゼロ』については多分、3シーズン目というのはないとして、ドラマ沼はハマると深いだけに危険。
3月のライオン 前編・後編
邦画では『3月のライオン』を劇場まで出かけて観て、もちろん羽海野チカの原作が好きなのだけれど、何しろ大友啓史監督の仕事である以上はほぼ不満のない映像化で桐山零も神木隆之介にあて書きしたとしか思われない。幸田香子を有村架純が演じて、原作では初めの方にかかわったこのキャラクターをフィーチャーしてくること自体に不思議はあったけれど、そのエピソードを原作が改めて補強する共鳴があり、実写化によって物語の奥行きが深まる幸せな例となったのではあるまいか。
エンディングテーマとなっている藤原さくらの『春の歌』がまたいい。
ダンケルク
実はクリストファー=ノーランも好きな監督で『ダンケルク』は楽しみにしていたのだけれど、残念ながらIMAXでの鑑賞とはならず、その点ではどうもハードルが高い。ダンケルクの砂浜に取り残された一兵卒としての臨場体験の迫力は体感できずとも、しかし映画としては十分に楽しめて、リアルでありながらドイツ兵の一切が登場しない戦場の抽象的な構築には大いに感心したのである。
ベイビー・ドライバー
The Jon Spencer Blues Explosionの『Bellbottoms』にシンクロした冒頭5分ちょっとのカーチェイスシーンはエドガー=ライトが長年、温めていたアイディアだそうだけれど、なるほど近年のベストに挙げてもいい。こちらも『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』が幼少期のカーアクション体験だったりするので、この分野にはかなりうるさいほうである。
本邦のテレビドラマも2017年は『カルテット』に始まり、『ひよっこ』にはハマった。年明け、野木亜紀子脚本の『アンナチュナル』に期待を高めつつ、もちろん、紅白は『ひよっこ 特別編』を視聴して今年もおしまい。