矢継ぎ早の大統領令は意図をもってあらかじめ準備されていたに違いないけれど、これを正当化するトランプの言説はほぼ「国民を守るため」という主張の繰り返しで、最近ではよく『Our brand is crisis』を連想する。
2002年のボリビア大統領選挙に介入したCIAのコンサルタントが、傀儡候補のゴンサロ=サンチェス=デ=ロサダの選挙戦略を立案し、ほぼ争点となっていなかったはずの「国家の危機」に繰り返し言及して支持率を高め、ついには選挙戦に勝利した事案をもとに2005年に制作されたドキュメンタリーで、サンドラ=ブロック主演の映画にもなっている。
今そこにある、しかし誰も見たことがない危機を唱えて大衆を扇動するのは独裁者の常套手段ではあるけれど、CIAが南米の最貧国に介入して専横をふるった事件と、合衆国の現在が二重写しになるのはやはり自業自得というべきか。
ボリビア大統領そのひとは、農民団体や労働者団体のデモ隊との度重なる衝突で大量の死傷者を出して選挙の翌年には辞任、亡命という末路を辿ったのだけれど、帝国の衰退はおそらく、より緩やかで不可逆なものとなろう。
そして本邦のメディアは、トランプ政権の暴走を彼岸のこととして報道しているけれど、いささかスケールが小さいとはいえ、あれがジャイアンならこちらはスネ夫というのが我が国の政権なのだから、例えばメディアに対する敵対的な態度を人ごとのように報じている場合ではないではないか。