ジェローム=K・ジェロームの『ボートの三人男』は長らく座右の書であり、丸谷才一の翻訳は翻訳者自身の作家性をすら感じさせる語り口で絶妙というほかないユーモアを湛えていると思うのだけれど、最近、新訳版が出ていると知ってちょっと興味を感じている。丸谷才一の翻訳に満足していたこともあって原典に当たるということをしていないのだけれど、その面白さは翻訳者の才能によって立ち上がっていたところもあるのではあるまいか。もちろんのこと、それを確かめるには新訳版を読んでみるのが手っ取り早いのだけれど、まず、その意義があるのかどうか。