『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観る。兄のベン=アフレックも好きだけれど弟の方も昔から好きな役者で、この映画でアカデミー賞の主演男優賞を獲ったというのもまず喜ばしい。もともとマット=デイモンにオファーがあったのを、役柄に恵まれないケイシー=アフレックに譲ったという話だけれど、しかし剣呑な脆さの窺えるこの人にこそ適した役回りとみえる。これがマット=デイモンだとすれば、だいぶ印象の違ったものになったのではあるまいか。ただし、ハーヴェイ=ワインスタインの一連の事件にマット=デイモンもその名前が出て、何よりケイシー=アフレック自身にセクハラ問題があるからには、徒党的な印象のあるハリウッドの仲間内感への嫌悪が先に立って単に美談にみえない。
物語は主人公リー=チャンドラーの過去を徐々に明らかにしながら進行し、中盤、『アルビノーニのアダージョ』をBGMとしてひとつのクライマックスをつくっているのが見どころ。この長いシークエンスの悲劇性が慣性をともなって、静かに閉じていく後半を支配しており全体に抑揚は最小限なので、なるほど役者の仕事の比重は大きい。脚本の出来も端正で、見応えのある作品であるには違いない。