『レッド・スパロー』を観る。クレムリンの公用語が英語という独特のエスピオナージュは『ハンガー・ゲーム』と選ぶところのないファンタジックな世界にみえるけれど、ロシア的な記号で監獄国家を表現しようという意気は窺えてその仕事は精密と言ってもいい。細かいところで巧妙な演出が効いている一方で、ドライブのないラップトップで3.5インチのフロッピーの中身を確認するという茶番が平然と組み込まれているあたり、フランシス=ローレンス監督のITリテラシーの欠如というより、強引な作劇の綻びと見えなくもない。最後にフロッピーディスクを使ったのはいつのことだったろう。
いずれにしても徹頭徹尾、これはジェニファー=ローレンスの映画であり、その点では全く不足のないつくりとなっている。薄幸な主人公が圧倒的にしたたかに生き抜くという役回りでは当代一で、瑕疵がある印象のストーリーを成立させているのは彼女の力だと思う。