勝手にふるえてろ

正月早々、みなとみらいのブルク13に出かけて『勝手にふるえてろ』を観る。あの松岡茉優に、そういえばこれまで主演の映画がなかったとは少し意外な感じがするくらいだけれど、もちろん演技については折り紙がついていて、主人公ヨシカの内側でのジタバタがほとんどという117分をぐいぐい駆動して飽きない。監督と脚本は大九明子で、綿矢りさの原作の文体をうまくセリフに落としていると感じさせる一方、名前にまつわる文脈は深めてあって映像的にも面白みを加えているし、全体として映画的な演出が効果的に機能しておりうまい。世界の反転が大一番だとして、アパートの狭い玄関を境界として象徴的に使い、クライマックスで反復してみせたあたりもいい。
松岡茉優というのは天才肌の雰囲気があって、『ちはやふる』ではこれまでとは違うキャラクターを演じ切ってその幅を証明しているけれど、主人公の江藤良香の中学生当時とその10年後に微妙に異なるオーラを纏って茶番にしない凄さがある。これをクローズアップショットの表情で演じきれる女優がいったい何人いるだろう。
ちょっとヨリの画面が多いような気がするけれど、もちろん、観客の感心は松岡茉優その人の演技であり、その表情が感心するほど素晴らしい演技である以上はこれでいいのである。凡百の邦画であれば長回しにするだけの歩道の場面で車を走らせてみせる監督の仕事であれば、思わず笑ってしまうような画面もそこかしこにあって楽しい。

みなとみらい