どちらかというとリアリティに振ったダニエル=クレイグ版の『007』が国際的な陰謀の題材に選んだのも水の独占だったけれど、人間の為す悪とは何かを考えたときに、水を利用して営利を貪るという行為は倫理的なおぞましさを感じさせるという点で普遍的なテーマになり得る題材であるといえる。そしてもちろん、『007』が参照したのは『ザ・ウォーター・ウォー』が描いたボリビアでの水搾取であり、水の私企業による独占が国家のスケールで実際に起きている悪であることは論を俟たない。そして、ことが南米の最貧国の話であリ、この国でそれが起きないというのは、もちろん当事者としてのバイアスがもたらす幻想に過ぎず、ボリビアが水道事業を欧米の私企業に売り渡したそれと同じことをいわゆる「水道民営化法案」でやろうというのが本邦の政権なのだから、売国というのはこのためにある言葉なのではないか。
ボリビアがその貧しさゆえに社会基盤を切り売りしたのではなく、政治的腐敗の果てに国を売ることになったというのはサンドラ=ブロックの『選挙の勝ち方教えます』が示唆している通りだろうし、武器を買い、カジノを合法化し、水道を売り、愚行を重ねる政権が覇権国の歓心を買うという一点に集中してその権力を維持していることを見れば、南米の姿は鏡像といっても過言ではない。