『ドリーム』を観る。日本での公開時に『私たちのアポロ計画』という副題をつけようとしてちょっとした炎上騒ぎになったのを憶えているけれど、それ以前、『Hidden Figures』という詩的ともいえるタイトルをよくも陳腐に掛け替えたものである。マーキュリー計画を扱っているのにアポロ計画と言うことができる厚顔でなければ、なるほどこういうことは出来るものではない。
映画そのものは冒頭から計算された配色と端正な画面構成で語られ、ラングレーにあるNASAの西区画と東区画の対比をはじめとして実によく作り込まれているし、キャラクターの明確さも適度に刈り込まれたストーリーもよくできている。”whites-only” bathroomのせいで遠くの建物への往復を余儀なくされる主人公と、その反復運動のなかで物語を編んでいく流れは見事。当時のNASAでは非白人用のトイレは既に存在しなかったとか、事実との違いはあるようだけれど、差別と偏見が存在することが事実である以上、もちろんそんなことは問題ではないのである。セオドア=メルフィ監督は脚本にも入っていて優れた仕事をしている。
キルステン=ダンストが難しめの役で出演していて嬉しい。こういう役回りをきちんと演じることができる役者なのである。