ウィンストン・チャーチル

『ウィンストン・チャーチル』を観る。『ダンケルク』はダイナモ作戦の政治的側面を全て排除していたけれど、何ならこれをA面といってもいいくらいの時間軸でウィンストン=チャーチルの首相就任直後の難局が描かれる。同じくチャーチルの第1期を扱った『イントゥザストーム』よりもさらに高い密度で構成されていて、組閣後約1ヶ月間、宥和策を容れるかどうかの葛藤をテーマとし、原題の『DARKEST HOUR』に呼応して重厚な色調の画面で語られる。通路や地階からの昇降のシーン、あるいは天空に引いていくロングショットの多用によって画面には立体的な動きが付与されて、ほぼ会話劇というべき内容だが映像的にも飽きない。クライマックスは1940年6月の下院演説で、ゲイリー=オールドマンのチャーチルは外見を寄せているばかりでなく、録音記録のないこの演説がほとんどこのような調子だったのではないかと思わせるようなリアリティを纏っていて無論のこと見どころとなっている。
『イントゥザストーム』と違って国王ジョージ6世が、エドワード8世の退位を巡ってチャーチルに不信を抱いており、しかし後の信頼関係を予感させるやりとりが描かれているあたりは芸が細かい。チェンバレンとエドワード=ウッドはほとんど悪役の扱いだけれど、実際もだいたいそんな感じだったのではあるまいか。