『タクシー運転手』を観る。1980年に起きた光州事件を題材にした2017年の韓国映画で、封鎖された光州市にドイツ人記者を連れて行くタクシードライバーをソン=ガンホが演じている。『パトリオット・デイ』同様、実際に起きた事件に材をとっているのだけれど、映画としてはこちらが数段、上等とみえるのが面白い。実際の弾圧を描きながら、これは等しく我々の身に起こりうることだと思わざるを得ないのがこの映画であるからには。40年近く前の風俗を再現することにそれなりの労力が注がれているのは間違いないのだが、それ以上に、主人公の回心というテーマが異界への訪問と遁走というモチーフに象られた普遍性のあるストーリーになっている。これこそ物語の力というものではあるまいか。