劉慈欣の『三体』を読み終える。SFの名作は数あるが、J=P・ホーガンであり山田正紀でありカール=セーガンでありアシモフですらある小説はなかなかあるものではないし、何より劉慈欣という中国の作家にしか描き得ない切実な現実があって、先行作品を想起させつつ独特の世界を構築しているという点では、マニアにこそ嬉しい読み応えを提供している。面白い。
三部作の序盤が語られたに過ぎないこの段階で、既に話は11次元にまで達しているわけだけれど、前評判によればそのスケールはどんどん広がっていくようなので2020年刊行予定の次巻を刮目して待つ他ない。原著は既に完結しているという点が安心材料である一方、中国と本邦の間に10年以上のリードタイムが存在する点は両国の距離感を示して興味深い。翻訳に大森望が入っているところに工程の事情も垣間見え、しかしお陰でリーダビリティは十分に確保されている。