新しいAppleのTVアプリの使い勝手は今ひとつなんじゃないかという疑念が拭えない昨今、しかし11月から配信されるApple TV+の『For All Mankind』の予告を観て、おいこれは『シンギュラリティ・ソヴィエト』じゃないかと思いつつ、掴みだけでも滅法、面白そうなので震えている。人類が何故、その先を目指さずにいるのかというのは、確かに深遠なテーマとなる可能性がある。楽しみ。
Month: October 2019
以小事大
文化庁の外郭団体が『宮本から君へ』の助成を取り消したという話には、これまでと同様の不透明さを感じつつ、言いがかりをつける人間の見識の浅さを理由として勝手に納得していたようなところがあるけれど、この決定自体が『新聞記者』のプロデューサーでもある河村光庸氏への嫌がらせではないかという観測には、まずそれが事実に違いあるまいと感じて妙に腑に落ちる。この国の、ことに官僚機関の荒廃からすれば、政権の歓心をかおうと浅ましい番犬ぶりを発揮しようとする輩がいても驚かないし、そのような指示があったとしても不思議とは思えない。何しろ、わずか数年で美しいニッポンの品格と公正の基準は、堕ちるところまで堕ちているのである。
G線上のあなたと私 第2話 好きってなに?
『G線上のあなたと私』の第2話をオンエアで観る。『マツコ』からの流れで面白い火曜ドラマを観ることができる幸せ。
今話では、微妙に気になっていた原作での話の流れを違和感なく補正して、しかしエピソードはきちんと織り込んでリスペクトも感じる脚本の妙手に唸る。第1話のクライマックスで出した独自の振れ幅を、第2話で回収しつつピークをつくる構想力にも感心した。安達奈緒子という脚本家の仕事ぶりは、野木亜紀子のそれに似てしっかりとしたロジックを感じさせ、決して原作殺しと思わせない点でなかなかのものだと思うのである。堪能した。
THE GUILTY/ギルティ
『THE GUILTY/ギルティ』を観る。緊急通報指令室を舞台として、電話のやりとりだけで事件の一部始終が語られるデンマーク製のサスペンス映画。予算の低さを知恵で埋め合わせようという心意気が明らかな作りではあるけれど、その意図は優秀な演出とカメラワークによって達成されており、88分の尺を高密度に繋いでダレるところがない。事件がやがて鬱屈を抱えた主人公の警官の内面に立ち入ってくるあたりの説得力を支える役者の演技もなかなかのものである。最近ではインターネットを使った『search/サーチ』も似たような趣向だけれど、音声電話だけで舞台移動なしというストイックさではこちらが勝る。
運び屋
『運び屋』を観る。クリント=イーストウッドが『グラン・トリノ』以来ほぼ10年ぶりの監督、主演で、人生には今日より新しい時はないということを教えてくれる映画。90歳でメキシカンカルテルの運び屋をしていた園芸家の実話に基づいているのだけれど、「今のハリウッドには自分のための役はない」という発言が俳優としての引退宣言と伝えられていた翁の前線復帰に相応しい役回りで、モデルとなったレオ=シャープのことは知らないけれど、『グラン・トリノ』の脚本家でもあるニック=シェンクがあて書きした以上は、伝記的な内容という訳ではなくて、クリント=イーストウッドその人が演じる他のないキャラクターが立ち上がっている。エンディングは署名にも似て、紛うことのないこの監督の読後感を残す。
G線上のあなたと私 第1話 私にはなにもない
『G線上のあなたと私』の第1話を観る。TBSの火曜ドラマといえば『逃げ恥』『カルテット』と定期的に自分的傑作を送り出してくれるアタリ枠だけれど、金子文紀の演出で行きつけのショッピングモールであるラザウォーク甲斐双葉を舞台に始まる物語とあっては、観ないわけにはいかない。そのラザウォークがどうやら相模原あたりに配置されている物語上の都合はあるとして。音楽が『逃げ恥』と同じ末廣健一郎とMAYUKOのコンビであるのも嬉しい。そして安達奈緒子の脚本はいくえみ綾の原作をよく咀嚼して、わかりやすく再配置した格好でなかなかよく出来ている。『なつぞら』からこっち中川大志が気に入っているのだけれど、セリフが役者のよさを引き立てていると思うのである。このドラマは続けて観るつもり。
(r)adius ラディウス
『(r)adius ラディウス』を観る。記憶を失った男が、近づく人間が次々死んでいく怪現象を引き起こしているのが自分であると悟り、物置に立て籠もっていると同じく記憶を失った女が訪ねてくる。93分のカナダ映画で、小品なりのシンプルな展開に若干のひねりもあってサスペンスとしてなかなか面白い作品になっている。語り口が違えばM・ナイト=シャマラン風味になってもおかしくない話だけれど、演出は平凡なので小道具としての怪現象の扱いが肩透かしと思われてしまう懸念はあって、そもそも解明が別筋に用意されているこの展開をどれだけの人間が納得しているのか興味深い。