このところ、以前に比べて映画を観るペースが落ちていることについては自覚もあるのだけれど、2019年の鑑賞本数は90本そこそことなりそうである。Netflix、Amazon Primeに加えてApple TV+が加わったサブスクリプションの充実に比べてのこの状況は、選択の充実が必ずしも消費につながる訳ではないという行動のパターンを示唆していて興味深い。昨年の暮れにも高度資本主義経済におけるこのあたりの文化的荒廃を反省した覚えがあるのだけれど結局、YouTubeあたりに有限時間を振り分ける愚行を重ねて2019年も終わる。
フォー・オール・マンカインド
そのApple TV+の参入にどのような勝算があるのか今のところはよく分からないけれど、いくつかの質の良いコンテンツのなかでも『フォー・オール・マンカインド』は一頭地抜いていると見えて、シーズン1計10話の世界線をかなり楽しむことができた。いくらでも続けられそうなストーリーでもあって、初めからシーズン1と冠されたこの物語がどこへ向かうのかということだけが、気がかりといえば気がかり。
ファースト・マン
デイミアン=チャゼル監督の『ファースト・マン』は同じく月面ミッションをテーマとして、しかしさすがにこの監督が大作映画の予算で作ればレベルが違うという唸るような出来栄えで、ことにアポロ11号の月面着陸シーンはこれまで想像したこともなかったような緊迫感で描かれており、強く印象に残ったのである。『アド・アストラ』『フォー・オール・マンカインド』と月面を描いた映画が多くあった年でもあったけれど、本作の演出はピカイチといわなければならない。
アベンジャーズ/エンドゲーム
マーベルの映画は嫌いではないけれど、世界の広がりすぎた『アベンジャーズ』には正直、ついていけなかったところもあって、『エンドゲーム』にあわせてMCUの幾つかの作品を急ぎ鑑賞し辻褄を合わせた格好。『インフィニティウォー』から『エンドゲーム』にかけて紡がれた長大なクライマックスは、派手な映像ではあるけれど演出や画面設計はイマイチという過去の幾つかの『アベンジャーズ』に比べると見どころも多くて、かなり楽しめたのである。
ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
しかしMCUかモンスターバースかと問われれば断然、後者であるというのが当方の立場で、『エンドゲーム』と並べれば『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』に票を投じたい。世間的な評判は措くとして、怪獣過多というべき本作はマニアの妄想によってのみ成立し得た濃度があったと思うのである。
ウィンストン・チャーチル
2019年の初めには『イントゥ・ザ・ストーム』と『ウィンストン・チャーチル』という、第2次世界大戦に突入していく英国とチャーチルを描いた2作を続けて観たことがあったのだけれど、特に『ウィンストン・チャーチル』は英国の危機がもっとも深刻な局面にあった時期に時間軸を絞り、原題の通り『DARKEST HOUR』を描き切って見応えがあった。一方、保守党が選挙に勝利してBREXITに突き進む現代の政治状況を考えると、彼我の距離には目眩がするほどである。
いだてん
歴史を扱いながら対照となる現代を鮮やかに想起させた同様の物語として、本邦にはもちろん『いだてん』があって、一年にわたり長大な物語を構成しきった製作と脚本家の仕事には感嘆する他ない。2019年のいちばんの収穫を挙げるとすればこのドラマになるのではないか。個人の熱意を公共化しようという登場人物の不在を改めて認識したその結果、2020には何の興味も持てないという現下の気分と合わせ、優れて同時代的な作品であったと思うのだが、そんな大河がこれまであっただろうか。
憎悪に満ちた嘘の言葉が現実をハイジャックしたような状態が続いているけれど、そろそろ反攻が始まりそうな気配もある。嘘を無効化するのが結局のところ物語の力であれば、映画とドラマの方面でも2020は豊穣の年となるのではあるまいか(期待)