ザ・ピーナッツバター・ファルコン

『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』を観る。シャイア=ラブーフもいつのまにか30半ばとなって、無精髭の無軌道な男を演じ貫禄すら漂わせている。ダウン症の青年ザックが、押し込められていた州の高齢者施設を抜け出して、シャイア=ラブーフの演じる男タイラーとジョージアからフロリダにかけての低湿地と河を下る旅に出る話。

マーク=トウェイン的な舞台装置のロードムービーというだけで我が内なる郷愁を掻き立てるというものだが、何かを失って、周囲からは下に見られている者たちが、心を通わせ復権していく物語であればいつしか深く頷きながら観ている。自身もダウン症で劇中、ザックを演じるザック=ゴットセイゲンの演技は的確で、こちらも素晴らしい。冒頭近く、プロレスラーを夢見るザックが、行きがかりからブリーフだけで施設を飛び出すのは無論、レスラーのコスチュームになぞらえた多重の意味があり、さらには盲目の黒人の男から川での洗礼を受けるシーンもあったりして、丁寧に再生の手続きを踏む脚本もよく出来ている。傑作であろう。