『空母いぶき』を観る。伊藤和典の脚本である以上はある程度、まともな内容であることはわかっていたので、話そのものというよりは、CGのクオリティを心配してちょっと躊躇していたのである。ベタ凪の海上戦闘はあまり観たくない。しかし、画面の作り込みはそれほど悪くなく、ストーリーに入れば問題なく観られるレベル。原作のマンガは未見。
いくつか並行する物語の起伏と戦闘行動のバリエーションも練られており、東亜連邦という不思議な漢字名称の仮想敵国も存在自体が後景化しているので違和感は大きくない。どちらかといえば、国民の生命と幸福を考えている内閣総理大臣とか、国連の実効的な存在感のほうが奇異に感じられるのだから、このような時代となってはフィクションも大変なのである。戦闘行動そのものが外交の一形態であるという枠組みをきちんと踏襲しているあたり、さすが伊藤和典というところなのだが、我が国の有事においては前線での戦闘に全てを丸投げしたまま外交と政治は漂流するであろうことが半ば証明されており、踏み止まるための努力は文字通り絵空事となるだろう。その点で今日的な論点をもつ映画であるには違いないし、ネトウヨが本能的に忌避したのもわかる。企画は福井晴敏ということなのだが、その意図は興味深い。
それら全てをおくとして、西島秀俊の秋津艦長はなかなか素敵。