籠城

籠城戦2日目にして、そもそも開始に先立つ4月7日、厚生労働省からN95マスクの調達見通しが立たないため各現場は廃棄については慎重に考えるようにという通達が出されていたというニュースがあって、この国はさき敗戦から何も学んでいないという、いささか使い古された言葉を想起せざるを得ない。布マスクの配布に466億円の国費が費やされるという報道にも。この国の中央が、ある意味で奇妙な楽観に囚われているこの状況は、透徹した現実認識の欠如からくる最後のユーフォリアなのかもしれないと思うばかり。

デジャヴ

各国のリーダーが第二次世界大戦以来の危機だと言っている同じ事態にあって、本邦では目先の休業補償を回避するため様々な虚言が弄され、非常事態宣言下でなお金勘定の話がされる第1日目。首都と全国での感染確認はいずれもこれまでにない件数を記録。

「クリスマスまでには終わる」といわれた第一次世界大戦が四年続いたことと重ねて現在の楽観的な見通しに違和感を感じる市井の意見はもっともだと思う一方で、2週間で感染の減少を確認したいと言われては同じ現実を見ているのかまず心配になる。虚言にしても賞味期限が短すぎるではないか。

あらかじめ負け戦であることに加えて、精神論と棄民政策が幅を効かせる状況をみれば自然と太平洋戦争の展開がダブってくるわけだが、そこに「三密」と言われればどうしたって「三光」を思い出して、専門家会議の副座長ももはや邪悪な専門家にしか見えなくなっている。

皺寄せ

気分よく記者会見で見栄を切っているところを気の毒だが、感染爆発は既に起こりこの先に待っているのは指数関数的に悪化していく地獄なのだ。2週間前にはオリンピックをやると言って、先を見通す力がないことは証明済みの本邦なので、そのあたりは考えないことになっているのだろうが無論のことウイルスが忖度してくれることは一切なく、冷徹なメカニズムによって事態は急速に悪化する。8万人が罹患するとして、それによって生じる被害想定を説明できるかどうかがリーダーと、そうでない者を峻別する。

本来、地方自治体に委ねられていることまで語ろうとするのはトランプと同じ傾向で、つまり本能的にいいとこ取りをしようとするポピュリストの性根の卑しさが透けている。法治の構造とは本質的に合わない、論理的でもないこうした言動により、言葉通りの非常事態にあって現場はさらに混乱するだろう。

Go to hell

パンデミックの最中に経済刺激策のことを考えようというほどにズレている政府が、作法に則ってまともな都市封鎖ができると期待したほうが悪いといえば悪い。諮問会議にその責任を擦りつつ、専門家が必要ないというから諸外国のようなロックダウンはしないというこの国の非常事態宣言は通勤OKという底抜けなシロモノで、これにはさすがに言葉がない。検査能力以上には感染確認数が増加していくことはないという揶揄そのままに、この事態を隠蔽によって乗り切ろうと考えていてもおかしくない展開になってきた。いったい、この連中は海外のニュースさえ見ないのだろうか。

ニューヨークにクオモ知事、イギリスに覚醒したボリス=ジョンソンがいるとして、本邦でマトモな知性は山中教授くらいという惨状では、そもそも分が悪すぎるのだが、これも反知性主義の勝利とみればこの数年の日本の歩みの集大成ではあるだろう。ウイルス制圧に失敗した国として最後の入国禁止国となってなお、大勝利が叫ばれるのではなかろうか。

百年

都内では新たな感染者が143名、4月9日に1,200名を数える可能性があるとした横浜市大の佐藤教授のモデルを上回るペースで累計が増加しており、どこをとっても指数的な増え方となっている。3日と経たずして倍の人数となる可能性は十分ある。

ほんの1-2週間で万のオーダーに達した後、一週間ごとに桁を増やしていく増加ペースを見た後では何もかも手遅れということになるだろう。しかもそれは首都東京だけでの話ではないのである。

どう考えても日和見戦略には暗い未来しかない。いま見えている増加が2週間前の姿だとして、その後の自粛に効果があったと確認できる証拠はどこにもないのだ。Googleのデータが示唆しているのは、ウイークデイには律儀に出社を続けている勤め人が9割以上いる状況であり、それはテレワークに移行したのが5%程度という調査と符合する。

本邦の政府は入口にも入っていないのにコロナ終息後の振興策とやらを考えているようだけれど、岩波のサイトで100年前のスペイン風邪の教訓から学ぶといい。新型コロナウイルスの流行も二度三度あるに違いないし、ここまで急速なペースでの伝播を踏まえれば、今回も淘汰圧は強毒化に向かうのではないか。

現実歪曲

都内の感染者は118人を数える。押谷という人のことはよく知らないが、国内感染の非常に初期の段階で8割は軽症、インフルエンザのようなものだとニュースで語っていたのを見ているので、つまりそういう役回りの人間だと思っている。この期に及んでのTweetを読むと、未だに「三密」の回避を自粛により達成しようという話だから、どうも科学者の言葉ではないのである。日本人の底力とやらに期待して、基本再生産数が1を下回ることは金輪際ないであろう。何より、クラスター対策の専門家と名乗るチームで押谷・西浦両名の発言がてんで一致していないのは末期的だ。

「行動変容!行動変容!行動変容!」という言いぶりをみると、WHOに「検査!検査!検査!」と言われたことを根にもっているように見えるのだが、本日は複数の病院で院内感染が判明し、つまり検査対応の不備が侵食をもたらしているのは明らかで、むしろ医療崩壊はこれが原因となるのではないか。初戦の僥倖が増長をもたらし、クラスター対策という消耗戦の隘路に入り込んで、今や戦略的にどうにもならないところに追い詰められているという見立てもそう外れていないように思える。これこそ旧軍の伝統というべき負けパターンで、どうしたって敗戦が重なって見える。

幕間

週末にかけてより強力な行動制限を求める言説は強まっているけれど、経済的な支援策のやり直しに時間を使っていて感染症対策の方は進展なしとみえる本日。わずかに軽症者を病院から宿泊施設に移動する話で変化があったけれど、このタイミングで今さらクラスター対策班の公式Twitterアカウントが立ち上がったりするので、手遅れ感はさらに強まる。その西浦教授は今やいわゆるロックダウンの必要を表明して、日経やNHKといった政府系メディアで伝えられたのが進捗といえば進捗。ことは近い。

当地では、別荘地に首都圏からの避難民が流入していると話題で、スーパーの駐車場には避暑時と同じように大都市圏ナンバーのクルマが多くあるので、全体としてはデマという感じでもないみたい。危機が言われ始めてからのモラトリアムによって、危険は速やかに地方まで伝播し、今となってはことは東京やその通勤圏にとどまらず、より広域での行動制限が必要となってしまったというわけである。

そしてアメリカ大使館は日本の検査不足が実態の把握を難しくしていると敢えて指摘したうえで自国民の退去を勧告して、いよいよ風雲は急を告げている。著名人の感染確認が相次いでいるという印象があるなら、つまり分母の数に問題があると考えるのはおかしくない。