梨泰院クラス

『梨泰院クラス』を観ている。一般的な入り口は『愛の不時着』というのが世の中のコンセンサスだという認識だけれど、それには乗りそこなって、しかし『梨泰院クラス』は1話70分弱を一日4話のペースである。ここにはドラマのあらゆる要素があるではないか。いや、面白い。エピソード5ラストのイソは最高。からの、第6話のドラマメイクの凄さよ。

1917

『1917』を観る。サム=メンデス監督が祖父から聞いた第一次世界大戦の西部戦線の話をもとにつくった映画。最前線に攻撃中止命令を届けることになった伝令の視点で全編を描いており、気合の入った長回しの連続とサム=メンデスの得意とする宗教画のように幻想的で美しい画面が両立していて、かなり見応えがある。傑作であろう。

正直な話、『ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールド』を観たあとには、つまり現実と比較すれば、塹壕の様子はきちんとしているようにすら見え、何より兵隊は違和感があるほど血色がよく、歯並びも整い過ぎているのだが、死は唐突で理不尽なものであり、兵士は消耗品に近く命令によって命の遣り取りがなされるあたりで埋め合わされている。戦争反対。

ビブリア古書堂の事件手帖

『ビブリア古書堂の事件手帖』を観る。あまり確かな記憶ではないのだが以前、剛力彩芽が栞子役を演じたドラマがあって、ストーリーはそちらのほうが原作に近かった気がする。

こちらの黒木華の栞子はかなりイメージに近い。一方、話はそうでもなくて、過去に遡って因縁が描かれたりもするのだけれど、それほど馴染みがいい感じでもないので120分の尺を持て余しているようにみえる。クライマックスに至っては何でそうなるのと思えなくもなく、どうやら脚本の仕事に瑕疵がある。画面の印象は悪くないだけに少し残念な気がする。

MIU404 #10 Not Found

あらゆるものを劣化させたとしかいいようのない為政の果て、憲法の定める義務である臨時国会を招集することもなく、説明を果たすこともなく、ただ最長在任期間の記録を更新したことのみを業績として総理大臣が辞職の表明をする。その末期にあって政党は、ならず者の間で後継を回そうという様子だから、我々の投票行動を変えることなしには何ごとも変わらないとして。この国のジャーナリズムは環境適応の結果として、既にそれを名乗ることを諦めたのは辞任表明においても明らかとなった。

『MIU404』の第10話を観る。最終回手前、タメの展開になるのは予想していた通り、『フェイクニュース』の主題を先鋭化させたようなストーリーで、クライマックスに向け期待は高まる。物語にしか登場しない派手なハッカー能力はともかくとして、我慢のならないあれこれをきちんと文脈として提示するのがこのドラマの大事なところで、まず男子は正座して視聴するがいい。

喜劇

COVID-19が世を揺るがし始めて半年、当初、どんな病気かもわからないそれをインフルエンザのようなものだと言っていた副座長がいたけれど、ここにきて感染症法上の分類をインフルエンザ相当に見直す検討がされているという報道に呆れている。

もちろん、基準を変更して問題を不可視化するというのは原発事故でも採用された本邦のお家芸とはいえ、インフルエンザのようなものに非常事態宣言を発出したというのに、今さらHerd Immunityを採用しようということだから、社会的弱者の切り捨てを重ねてきた末、いよいよその生命を脅かそうというところに踏み込んできたわけだ。GOTOあたりで既に透けて見えていたこととはいえ、それもこれも金のためだというのである。

この病気が万人に降りかかるものであり、長期的な後遺症を含む影響について定説がないというのに、どうしてそういう方向にすすもうと考えることができる人間がいるのか、理解の外にある。

パージ

共和党の党大会のニュースによって、あらためて米国が落ち込んだドツボの大きさを実感している。これまで民主政体の劣化を扱ったフィクションは数多くあったとして、この現実を予見したものについては荒唐無稽というラベルもまた貼られていたはずである。

11人いる

大本営発表は846回行われたそうだけれど、COVID-19の感染確認数の発表が既に珊瑚海海戦を経ているかはともかく、どのようなニュース価値をもつかよくわからなくなっている。それでも東京が100人を下回ったと伝えられた月曜日、長野では初めて二桁となり11人という文脈には地方への拡散をイメージさせる象徴的な意味合いがみえて興味深い。日常の景色は点が接続されたときに様変わりすることがあるものだ。