家に来た時は落ちぶれてはいたけれど立派な成犬だったので、実際の歳はわからない。持病と疾病の多かった10年のなかで、都合5回は死にかけて、いやそもそも命拾いをしてやってきたのだから運も生命力も強い男なのである。
家族には吠えず、外の人間、いや車に向かっていくことも辞さない向こう見ずには思い定めた何かを感じ、何しろウンチのスタイルがかわいくて、これは終生変わることがなかった。背中の丸まり。ごまお。
その前半生でどういう経験をしてきたかはついに知ることはなかったけれど、義兄弟4匹の生活は楽しかったと思う。ほとんど最期まで美味しいご飯を食べ、パトロールを欠かさず過ごしたものである。
長く哭いたという。忍耐強く、理不尽で暴力的な外界への怒りを肩のあたりに滾らせて生きてきた小さきものが、あまりに立派に生き抜いたので病に敗れたとは見えず、畏敬の念で挨拶を返す。この長い下りの船の行き着く先で、また会おう。