『この茫漠たる荒野で』を観る。南北戦争後の変わりゆく時代を背景にしたロードムービーで、トム=ハンクスがインディアンに育てられた娘を、彼女の故郷に送り届ける旅をする。分断されたアメリカを舞台として、ポール=グリーングラス監督の現代的な演出で、各地をめぐりニュースを朗読することを生業とする男を主人公に据えて描く物語であれば、作品のテーマは容易に現在のアメリカと重なってメッセージの奥行きは深い。イーラス郡での物語のくだりは圧巻。
原作はポーレット=ジルズが2016年、トランプの就任した年に上梓した小説だが、ポール=グリーングラス自身も入っている脚本がまずよく出来ている。死んだと思われた男の復活のニュースが語られるラストは、もちろん死せる民主主義の復活を言祝ごうという趣向で、かつて『ショーン』が一時代の終わりの物語と解説されたのと対比をなして面白い。傑作であろう。