『デッド・ドント・ダイ』を観る。ジム=ジャームッシュが撮った正調のゾンビコメディで、仕立てはB級映画なのにビル=マーレイとアダム=ドライバーを配しているあたり、この監督が目前にいたら「お前、そういうとこだぞ」と言いたい。
夜間に墓場から蘇ってのっそりと動くロメロのゾンビであるのはいいし、きちんと設計された画面であるのも確かなのだけれど、ティルダ=スウィントンに『キル・ビル』をやらせ、ことさらタランティーノしてみせるこの男の動機はいったい何なのだ。メタなスクリプトを押し込んで、わざわざ俗物臭を出しているあたりも好きになれない。しかし、COVID-19の影響で公開が延期された作品のタイミングをみると期せずしてコロナ前世代ゾンビ映画の掉尾を飾ることになったようである。これ以降のゾンビ映画はパンデミックを経験したものとなり、当面は自分語りの道具になるようなこともあるまい。
この日、全国の新規感染確認は初めて2万人を超える。長野県も100人を上回り過去最多となり、なかでも県外からの来訪者が2割を占める。首都圏が医療崩壊の状態では、もちろん染み出すようにして周辺の医療体制も逼迫していくことになる。今ここで厳格な行動抑制に打って出ることが必要だが、盆休みによる移動が既に始まっているうえ、本邦の首相の空疎な会見をみるといかなる希望も持たないほうがいいようだ。指数関数的な増加が何もかもを圧倒する爆発的状況を経験しない限り日本人の自粛本能が再び起動することもないだろうが、その状況は検査抑制と自宅放置によって何重にも不可視化されているのである。