堀川惠子『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』を読む。広島・宇品を拠点とした陸軍船舶司令部のキーマンとなった三人の軍人を通じてその興亡を描き、旧軍の兵站思想の実際を浮き彫りにする。これまであまり知られていない田尻昌次中将の手になる資料を発掘し、往時の状況に照らして読み解いていく手つきだけではなく、太平洋戦争直前に軍を追われた中将の謎の設定と取材を通じて発見されたその答えを読ませる筆致も秀逸で間然たるところがない。
国家が経済そのものを戦時体制に動員していくなかで、これをシステムとして計量化して理解することができず、物量的にははじめから明らかな負け戦に突入し、結局のところその辻褄を合わせるために現場が疲弊するというのは、さきの大戦だけでなく、言いたくないがこの度のパンデミックにおいても再現されている構図で今日的な文脈が際立っていると思うのである。