3回目の非常事態宣言が発出したこのタイミングで、桜庭一樹の近刊『東京ディストピア日記』を読んでいる。COVID-19が徐々に日常を侵食して初めての非常事態宣言が市井の人たちの生活を大きく変えた長い春から2021年初頭にかけての記録であり、著者が自ら稗史という通りの内容なのだけれど、あまりに多くのことが起こったこの1年を時系列で記録してあるだけでも読み応えはあるとして、作者の観察と友人の意見とインターネットが伝える出来事がやがて世界の変容を象って、地球の裏側までの射程をもった文脈を成立させているあたりがとてもいい。事態がなお進行中であることを踏まえると、世界の終わりはこのように始まったとも読めるのである。
著者自身のnoteにしばらく投稿されていた記事ももとになっていて、そちらの雰囲気も好きだったけれど、書籍のもととなった雑誌掲載にあたってはもちろん書き込み方が違っていて、この対比も大変興味深い。ちょっと歴史的な価値があると思うのである。