逃げるは恥だが役に立つ

2016年の暮れ、いよいよクライマックスに向かう『真田丸』と秋から始まった『逃げるは恥だが役に立つ』は日曜日と火曜日の楽しみだったものである。2021年の正月、『逃げ恥』の新春スペシャルがこの休み唯一の大イベントとして予定されていたのは当然として、その前の時間帯にやっていたNHKの『ライジング若冲「天才かく覚醒せり」』もなかなか面白いドラマだったので、当時の幸福な時間をより一層、鮮明に思い出したものである。

その『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!』は原作マンガに新たに加わった10-11巻をベースとしてドラマシリーズのその後を拡張し、原作では想定されていなかったCOVID-19の影響まで盛り込み現実に接続してくるつくりとなっていて、ドラマを受けるかたちで深まった原作の課題意識をさらに掘り下げて返歌する構造になっており、積み上げられてきた世界観の厚みを活かした見事な続編になっていたと思うのである。

時は令和、しかしもちろん時代は徐々にしか変わらないからには冒頭から男装のガッキーがその姿形でやんわりと違和感を指摘し、選択的夫婦別姓が制度化されない不合理性についてはNHK(!)Eテレの『ねほりんぱほりん』の協力も得て端的に批判してみせ、何しろ2時間半の枠であるからにはいろいろ手際よく問題を捌いていくのだが、会社での軋轢や出産にかけてのあれこれは原作の文脈を踏んでいるとして、COVID-19が視界に入り、取られるはずだった育休が断念される流れは単に時流を取り入れているだけではない。

社会に実装されたシステムを合理的に使いこなすことで育児を乗り切ろうという目論見は真正の非常事態に直面して脆くも瓦解し、平時において貧しさを感じさせない津崎家でも結局のところ育児をサポートできるのは実家だけという身も蓋もない現実がこのオリジナル部分の実相ではあるのだけれど、普遍的な共同体の構造こそ生活を支え、結局のところその多様性を丸ごと肯定するのが人類の知恵であるとすれば、今回スペシャルの壮大なサブタイトルも伊達ではないのである。

一応、ラブコメというジャンルに数えられる物語でありながら、恋という言葉は主題歌のみに冠せられ、好きに続く言葉は搾取であり、愛に至っては月によって代替せられる奥ゆかしさだけれど、この愛情の奥深さはどうだ。この年末年始をほとんど野木亜紀子脚本ドラマの一挙放映で乗り越えようというTBSの気持ちもよくわかる。