CURED

『CURED キュアード』を観る。ウイルスによる感染症が広がり、感染者がゾンビのように振る舞う事態から、治療法の発見により立ち直りつつあるアイルランドで、元感染者の社会復帰のプログラムが開始されるが、非常事態がもたらした社会の断絶のなかで、元感染者自身が当時の記憶によって苦しみ、一部は過激派となって社会に再び騒擾をもたらそうとする。

時節柄、社会の不寛容と感染者に対する差別の構造からはコンテンポラリな課題意識が惹起されるし、アイルランドだけに過激傾向をもつ地下抵抗組織が形成されていく文脈にも自然と現実が投射されてリアリティを感じざるを得ない。これは2017年の映画なのだけれど、ワクチンパスポートの是非が議論される世界ではそもそも公開が危ぶまれるところで、非常に普遍的なテーマを扱っているのである。改名前のエリオット=ペイジが主演している。

ワンダバ

『ゴジラ シンギュラポイント』の第3話を観る。このクールの筆頭を挙げるとすれば、このアニメになると思うのである。引き続き素晴らしい。BGMのモチーフに「ワンダバ」が使われている通り、あらゆる特撮と怪獣ものの美味しい要素が詰め込まれている。フチコマまで登場するのだから、もちろんアニメも。滾る。円城塔の恐るべき碩学と周到なプロットを堪能しているうち、いよいよゴジラの影が現れ、来週が待ちきれない。

学習効果

去年の非常事態宣言から一年だそうだけれど、ぐるっと回って本邦はカオスのただ中にある。この状況でGOTO再開と言っている老人がいるという話で、まったく信じ難いことだが、トランプ下の米国がそうであったように、我が国でも情勢を握っているのは狂人ということらしい。いったい何がどうなっているのか。

大阪は変異株による爆発的な増加が始まって、行動抑制の要請が名前を変えて出ていることになっているようだけれど、フルコースのロックダウンでも痛めつけられていた欧州の例をみれば、ほとんど効果は期待できまい。

第1波は行動抑制政策の総動員によるオーバーキル、第2波は後から重症化率の低いウイルスが主体だったと分析されていて、さらに第3波は年末年始があったために奇妙に楽天的な学習が蓄積されているけれど、ワクチン接種をしながらロックダウンをしても増加する変異株の拡大に、ほぼ丸腰というのが現在地ではないのか。

ビーチ

どこかそういう気分だったので『プライベート・ライアン』の冒頭25分を観る。オマハビーチの上陸作戦みたいな、メメントモリ的な気分というのは好ましくないとして。トム=サイズモアの演じるマイケル=ホーヴァス軍曹がフランスの砂を缶に集めるまでが、オープニングシークエンスというわけだが、上陸用舟艇のエンジンの回転数が上がってからのテンションの連続は相当に作り込まれていて、そこだけでも一編の映画のようである。

美談

白血病からの寛解を遂げたアスリートがオリンピックの代表選手に選ばれた個人の努力に水を差す気はないけれど、この機会を逃すまいという勢いで五輪に躍進という報道をされては、恐れていては何もできないとGOTO政策をなお推進しようという与党幹事長を掣肘する報道はとても無理だろうと思わざるを得ない。

メディアがこの美談に乗ろうと群がる一方で、NHKが聖火リレーの中継に入ったオリンピック反対の音声を「自主的に」カットしている状況があるのだ。異常である。

TENET

『TENET』を観る。観よう観ようと思いつつ、随分と先送りしてきたものだが、腰を据えれば150分の長尺も期待通りの内容で、クリストファー=ノーラン監督らしい映画的な悦びが詰まっている。周到に練られたプロットも「エントロピーの減少」を正当化するほどのロジックはないので、どこかトニー=スコットの『デジャヴ』みたいな強引さはあるとして、「考えるな、感じろ」とブルース=リーを引いてくるのが企みの深さでもあって、もちろん映画ならばこれは有りなのである。ロバート=パティンソンがすっかりいい男になっていたのもうれしい。

そして実写原理主義のクリストファー=ノーランであれば『ダークナイト』ばりの冒頭の爆発も本物なら、ボーイング747の機体も実物ということになるので、それぞれのシーンでのスタッフの苦労はいかばかりかと思われて、背筋を伸ばして鑑賞しようとも思うわけである。このリアリティこそ、映画を映画たらしめているものであり、ニールの最後のセリフも実に味わい深い。What’s happened, happened.とは映画の構造でもあるからだ。

乱世

ニューヨークタイムズにトランプ陣営が行った詐欺まがいの集金についての記事が載っている。寄付を受け付ける際に継続的な支払いをデフォルトとしていて、選挙に敗れた後も意図しない寄付を続けさせられているサポーターが多数いるという話なのだが、自らの最も忠実な支持者から行き掛けの駄賃とばかり金を搾り取ろうという発想はサイコパスの領域にあって、酷いというより怖い。同時にオプトアウトしなかった者の迂闊を責める風潮がこれについてくるのが新自由主義の恐ろしさで、似たような地獄は本邦にも現出していると思うのだけれど、有象無象の支持者が望んでいるのはそういう世界なのか。この焦土作戦の果て、捲土重来などあろうはずもないと思うのだけれど、どうやら思いがけないことが起こるのがこの世界なのである、正味な話。