方法序説

Audibleに岩波文庫の『方法序説』があったので、これを聴く。17世紀の哲学者の考えをあらためて音声で聴くという経験自体がちょっと面白くて、科学の方法の原型を語る言葉はつまり現在と地続きの、個としての人間の寿命を越えた射程の長いもので、ちょっと感動する。そして第六部は、耳からは、何故、私はTwitterをやらないのか、そして止むを得ずTweetすることになったのか、という話に聞こえてちょっと笑う。このように、オーディオブックには脳のちょっと違う部分で共感を促す作用があるようで、興味深いと思ったことである。

竹中平蔵のトリマキだった窃盗歴のある大学教授にして内閣参与たる人間が、日本のコロナはさざ波と状況を嘲笑って顰蹙を買っている。同じとき、神戸では動脈血酸素飽和度が静脈血程度の70%台でないと入院できないという当局コメントに多くの人が戦慄していて、「さざ波」で医療崩壊の現実と、その状態にあってなお地方自治体任せで全体調整が何ら機能していない国家の現状が露呈している。政府が自衛隊に丸投げした1万人規模の接種会場運営は結局、民間に丸投げという話もあって、その無能を嗤う段階ですらない。

HELLO WORLD

『HELLO WORLD』を観る。野崎まどが脚本の2019年のアニメ。CGの違和感は冒頭あたりで感じるけれど、すぐに慣れる。Wikiの記述では2016年の段階で完成段階にあったSF要素の濃いシナリオが、『君の名は。』のヒットで再検討となり、エンターテイメント要素の強いものに練り直されたということである。狙われた二匹目のドジョウという雰囲気は確かにあって、これはかえって残念な結果となっているのではあるまいか。とはいえ、ストーリーの仕掛けは実に野崎まどらしいと思ったことである。

COVID-19による重症者の数は過去最多となり、日曜日だというのに引き続き多くの感染確認が報告されている。ことにマラソンのテスト大会のあった北海道は連日最多を更新して減速の雰囲気すらない。全国的にも変異株のモードに対応できていないうえ、自粛には逆の同調圧力すら働いている様子で、いよいよ死者の数に現れ始めるのではないかという地点にある。

今ここにある危機とぼくの好感度について

『今ここにある危機とぼくの好感度について』を観る。第3話では、招いた演者にかかわる炎上をきっかけに大学のイベントが理不尽に中止となる騒動を題材にしているのだけれど、件の演者が「日本僻地論」の「浜田」なので、また仲野先生が怒っているのではないかと思わずTwitterを確認しに行ったものである。

本編はあいかわらず飛ばしていて、外国特派員協会の想定問答の場面など、さきの緊急事態宣言における首相答弁を想起させる空虚さで時節を捉えている。またしても「意味」という言葉を持ち出して、「意味のあることを言わないことこそ日本における正しいリスクマネージメント」だと力説する主人公の空虚がドーナツのように形良い物語を作っていて見応えがある。舞台となっている大学の役割について、実は正面から扱っている脚本はやはり秀逸。仲野先生も謝った方がいい。

いなくなれ、群青

作業をしながらNetflixで『いなくなれ、群青』を観る。原作の小説は未読。舞台にもなっているらしく、そういう雰囲気はある。『1999年の夏休み』をちょっと思い出したけれど、ライトノベル感が強すぎて「ながら」でなければ途中で投げ出していたと思うのである。まず、タイトルありきということでよろしいか。

発出の時からわかっていたことではあるけれど、3回目の非常事態宣言がとりあえず月末まで延長になり、ワシントンポストには追い剥ぎ、簒奪者とまで言われたIOCのバッハ会長は、オリンピックと緊急事態宣言は関係ないとまで言って顰蹙を買ったが、17日の来日はなくなることが取り沙汰されている。

ここにきて新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は抗原検査とPCR検査の広範な実施を唱えているようだけれど、今さら広島の大規模検査の知見をひいて、わかったことがあると言われても戸惑いしかない。わざわざ抗原検査を行う理由は、利権絡みで買ってしまった在庫の消化であると理解した方がしっくりくるし、そもそもいまだにPCR検査能力を希少資源にしておきたいのは何故なのか。

そして河野大臣の1日80万回という接種目標も方法が煮詰まらないうち、総理大臣は1日100万回と言う。既に在庫となっているファイザーのワクチンは6月末には有効期限が切れるという話もあるくらいだから、いずれそうしたペースで消化しなければならないとして、この無能によってまたしても現場が割を食うことになる。

パーマー

『パーマー』を観る。これもAppleのオリジナル映画で、ジャスティン=ティンバーレイクがかつて罪を犯し故郷に戻ってきた男を演じている。よくある再生の物語ではあるものの、故あって預かることになったジェンダー・ノンコンフォーミングの子供サムの面倒をみるうち、そのあり方を全肯定して自分も立ち直っていくというあたりが時代を写しとっており、質の高いドラマになっている。ジャスティン=ティンバーレイクもいいが、こうした物語がいつもそうであるように、サムを演じた子役のライダー=アレンが負けていない。才能というのは次々と出てくるものである。『テッド・ロッソ』でキーリーを演じているジュノー=テンプルがサムの母親で出演している。佳作。

日本のワクチン接種率がOECD37ヵ国の最下位であることは既に広く知られているけれど、軍によるクーデターで社会が混乱しているミャンマーよりも遅れているとなれば、やはりどうかしているのではないかと思う。自衛隊による大規模接種の成否は自衛隊次第とかいうコメントをするのがワクチン担当大臣である以上、好転は見込めそうにない。県内の小規模市町村は高齢者の接種が完了するのが8月の計画で進めているというニュースを見たのだが、世界のスピードからいえば周回遅れならまだしもというのが本邦の実力で、丸投げによって事の成否はそれこそ各人の努力次第というのが宿痾のようになっている。個人の能力差はせいぜい10倍、チームであれば2000対1の開きになるという論でいえば、国家としての組織能力は三桁のイメージで劣後しているであろう。

テッド・ラッソ

Apple TV+は引き続きじわじわという感じでコンテンツを増やしていて、Netflixあたりと比べればそのスピードははるかに緩やかであるけれど、Appleの哲学と基準に従って良作が多いのは間違いない。問題は、Big Surでよくなったのではないかと期待していたmac OSのTVアプリの完成度が相変わらず低いことで、インターンに作らせたと揶揄されたレベルからどうやら改善していない。オーディオのデフォルト設定の変更方法がトリッキーすぎるというのはmac OSの思想的問題だとして、再生中にたびたび落ちるというのは不具合だと思うのである。

そんなわけで、Apple TV+のコンテンツ消化はあまり進んでいなかっったのだけれど、シーズン2がじき始まるという話を聞いて『テッド・ラッソ』を通しで観る。最近では前向きでウェルメイドなコメディはあまりないので、これこれと思いつつ、最後まで。1話30分の伝統的なフォーマットというのもいい。

最終話

そういえば『ヴィンチェンツォ』の最終話を早朝から観て全20話、途中1週の休みを挟んで11週にわたる視聴を終える。昏睡強盗のエピソード回収は結局なかったわけだが、最後は何となく『愛の不時着』の風味が加わっているような気がしなくもなく、何なら気球で逃亡して欲しいというこちらとは違うところに視聴者層の想定はあったということであろう。まぁ、そうだわな。

大阪大学の仲野先生が『今ここにある危機とぼくの好感度について』での研究不正の調査の描き方がアカンと怒っているのだけれど、どうも、権力の走狗たる公共放送に学究の聖域を揶揄されたと逆上しているようにしかみえない。自分はちゃんとやっているという限られた観測をもとに責任者出てこいとは随分、雑なクレームではないか。ともあれ、阪大総長を目指すのであれば、まずは『ワンダーウォール』を観るべきであろう。