死神永生

『三体III 死神永生』を読み終える。未読のひとは、これからこの本を読む楽しみがあるというわけである。羨ましい。トリロジーの第三作はとびきりハードな内容で、これまでと比較しても宇宙論的なスケールは桁違いに大きい。かつてこの宇宙から脱出する正体不明の異星文明というヴィジョンにSFの奥行きをみたものだが、その正系は中国大陸から出てきたのである。

この日、非常事態宣言が解除されたばかりであるにもかかわらず、東京の新規感染確認は早くも600人を超え、神奈川も200人を超える。悲観的な予測を凌ぐ急峻なリバウンドで、オリンピック開催に向けてのあれこれの議論は絵空事にしかみえない。あらゆる指標が高止まりした状況での解除であり、文脈的に妥当な対策がない状態で、ワクチンの分配すら滞ることが見通されているなかをオリンピック開催に向け突き進むことになる。正気ではない。

Amplenote

ノートテイキングやメモはもう長いこと主要なアプリジャンルで様々なサービスがあることは無論のこと承知していて、こちらも道具は好きな方なので日々、導入紹介を眺めてはトライアルに参加し「第2の脳」を作り散らかしているわけである。セカンドブレインというコンセプトはメモアプリの主要流派ではあるけれど、どれも決め手に欠けるというのがポイントで、つまり目論見自体が見果てぬ夢なのではないかという気がする。

Amplenoteというサービスは視野になかったので、まずその存在自体に驚いたのだが、ナレッジマネージメントというよりはどうやらGettin things doneの方法を一体的に実装しようという趣向で、メモの収集からタスクリストとカレンダーにつなげるフローがよく考えられている。エンジニアリング自体もRoamあたりより、だいぶよく出来ていて、日本語も通るしSafariでも普通に動く。基本的なところがきちんと出来ている感じで好感度が高い。いや、そう考えるとRoamはもっと頑張らなければならないのではなかろうか。

メモやノートはアウトプットに繋がらなければ意味がないという思想はそれ以上に重要で、この実利的態度はひとつの解になり得るのではないか。身も蓋もない話だが、ツールは何でもいいのではないかと思うのである。というわけで、Amplenoteの導入は見送り。

この日、オリンピックではスポンサーの酒類販売解禁という観測気球が上がり、上がった途端に爆裂してこれを打ち消す騒動となり、引き続きオリンピック一派は反オリンピック一派を逆撫でするためだけに活動している疑いが拭えない。そもそも準備そのものがうまく行っている気配もなく、全国の感染確認は再び増加傾向で、都知事は過労で入院という始末なのである。

魑魅魍魎

この日、組織委員会の会長からオリンピックの開催について分科会からは中止の提言がなかったという発言があって、忖度に忖度を重ねて結局は詰腹を切らされるという、美しい日本の組織史に新たな1ページが加わる。そこに映し出すだけで人間性が可視化される、オリンピックとはまことに恐ろしい魔法の鏡である。

そして自身の人間性を差し出して、今からこのような予防線を張っているということは、かなり悲惨な先行きを予感しているということであろう。空港検疫の不徹底ぶりが明らかになったのに続き、観客動員では1万人+別枠理論で事実上の青天井。酒類も解禁となれば、GOTOがそうであったように開放側の同調圧力が加わって、秋までにはいくつもの感染爆発が起きることになる。

地球往時

『三体III 死神永生』を少しずつ読み進めているのだが、そろそろ読み終えるのが惜しい時間帯にきている。荒唐無稽でありながら、トリロジーを通じて小説世界のルールは一貫していて、これまで踏破してきた距離の遠さを考えると、まず大した仕事であると感心せざるを得ない。ホーガンが『巨人たちの星』までの三部作で至った境地にあると思うのである。冬眠から醒めるたびに新たな世界が現出する物語の仕掛けが楽しいけれど、『ガニメデの優しい巨人』で巨人がエアカーテンの技術に感心したシーンのオマージュがさりげなく編み込まれていたりするのである。

沖縄以外では非常事態宣言の最終日となったこの日、東京の新規感染確認は前週を大きく上回って再拡大の傾向が明らかになりつつあるのだが、当然のように各地での人出も増えているという。大阪の3月をスケールアップした状況が到来することは本日時点でほぼ確定した未来とみえる。

緒戦

ウガンダのオリンピック選手団9名が組織委員会のプロトコルに従って来日し、空港の抗原検査にかかったひとりをPCR検査したところCOVID-19の陽性が判明したそうである。事前にはPCR検査を実施して、いわゆる陰性証明を所持していたということだから、検疫と隔離がいかに重要かわかるというものだが、十数時間のフライトを共にした選手団は、抗原検査のみで、14日間待機免除の適用によってそのまま合宿先の大阪に向かったというあたりがこの事案のハイライトということになる。

この騒動を10万人規模に拡大した場合に何が起こるかは容易に想像がつくというものだが、実際に何が起きているかは、少なくともその渦中にあってはわからず、したがって有効な対策をとることもできないに違いないのである。入国した選手団が潜在的な危険因子のように扱われるオリンピックとは何なのかと思わざるを得ないが、本当に万全の検査を実施するのであれば当然、陽性結果は連日、検出されることになる。この政府と組織委員会であれば結局のところ検査自体を骨抜きにしようとするだろう。

テネット

Netflixにもう『テネット』が来ていて、なんとなくこれを観てしまう。長くて複雑な物語であればこそ、再読したほうが面白いのである。面白い。

これは初見の時も思ったのだけれど、マイケル=ケインにブルックス・ブラザースのスーツをダメ出しされて、仕立て直したスーツが明らかに上等だとわかるのがクリストファー=ノーランの演出の力というものだろう。実写へのこだわりどころか、ごくわずかな質感の違いを映像化することまで意識していなければ、このシークエンスそのものが出てこないと思うのである。

政府の分科会の専門家を中心とした有志が、オリンピックを開催するのであれば無観客であることが望ましいという提言をしたこの日、JOCの会長は、できるだけ多くの人にカンセンして欲しいと言って、いつの間にかボトムを1万人とした条件闘争みたいな成り行きになっている。いうまでもなく、デルタ株は忖度などせず、ちょうど開会式あたりに向けて衝突コースにのっているイメージで、いったいどうするつもりなのか。

はじまりのふたり

『ゴジラ S.P』の最終話を繰り返し観る。なかなか濃度の高い2021年の上半期だけれど、暫定1位はこのアニメシリーズといってもいい。全13話を少しも弛むことなく、時空を往還するスケールの物語を語り切った凄さよ。最高のポストクレジットシーンまで堪能して、続編の期待に打ち震える。セカンドシーズン、はよ。そして、『コントが始まる』も今週が最終回で、とりあえず楽しみは『おかえりモネ』だけになってしまうのである。

デタラメにデタラメを重ね、緊急事態宣言は終わりにして、何だかよくわからない半規制状態でオリンピックに突入である。昨年よりも、無惨なやり方で個人事業主はすり潰され、疫病の拡大は物理の法則に従って速やかに進行する。犯罪に等しい決定を重ねるこの者たちを、よく覚えておく必要がある。