ダイナーの殺し屋たち

そういえば今クールで話題となっていた『ルパン三世 PART6』の押井守脚本回を観たのである。場末のダイナーで来るかも知れない標的を待ち構える殺し屋たち。店のウエイトレスと最後に訪れた二人組のタランティーノ的な会話と、まぁ、設定はそれっぽくていいのだけれど、凡庸な美術と演出はどのように脚本を殺すのかを深く考えざるを得ない仕上がりになっている。ダイナーなのか、あれは。

いちばん喋るやつから殺される、銃が強いとは限らないというメタなセリフを超越するルパンと次元の特権的な立ち位置とか、プロトコルそのものが価値として認識される「お宝」とか、押井守っぽさを引き出すよすがはあるとして、面白味につながっていると思えないのはちょっと残念。

ながたんと青と

『ながたんと青と』を読む。KISS連載中のコミックで、昭和20年代、占領統治の終わろうとしている京都で、戦争で夫を亡くした料理人が実家の料亭が援助を受けている大阪の有力者の三男と結婚し、傾きかけたこの料亭を立て直そうと奮闘する。ながたんという京言葉が菜切り包丁であるというのを初めて知ったのだけれど、菜刀からきているといえば、なるほど京言葉なのである。

第一印象最悪の年の差夫婦というロマンチックコメディの王道を踏みつつ、戦後に舞台をとって設定の不自然を感じさせず、今にもNHKの連続ドラマになりそうな類型でもありながら、いろいろと良い塩梅に整っていて面白い。

どこかで全7巻という文字をみたと思ったのだけれど、夜も深まってから読み始め、最後まで見届けようと読み続け、完結していないことを発見して驚愕する。既刊が7巻という意のよくあるミスコミュニケーションで、話はまだまだ続いているみたい。磯谷友紀というひとのマンガを初めて読んだけれど、目下の連載が三つもあるようなので感心している。

ファウンデーション #8

引き続き『ファウンデーション』を観ている。Apple TV+での扱いにも、力強い推しはなく既に二面落ちという気がしなくもなく、広い支持を集めているという話も聞かないし、拝借してきた設定はよりによって難解という作品ではあるけれど、これはこれで面白いとは思うのである。歴史のスケール感が今ひとつという感想はあるとして。そしていかにAppleが鷹揚だとしても、全80話という構想が終局まで辿り着ける気がしない。Podcastではターミナスに浮遊するボールトの謎を話題として引っ張っていたけれど、それが明らかになる日は来るのであろうか。

そして『青天を衝け』も引き続き観ている。今回ではわかりやすく自助論を牽制する台詞が入っていて、大河ドラマが今日的な射程を示すことはあまりないだけに好ましい。いかにも、貧しいものが多いのは政治のせいなのである。時代の痛みを刻んだ物語が作られていくことには大いに意味があるはずである。近ごろ『今ここにある危機と僕の好感度について』が再放送されていたけれど、NHKのドラマにはやはり頑張ってもらいたい。

フィンチ

Apple TV+で『フィンチ』を観る。太陽フレアにより終末を迎えた世界で、文明の遺物を探索しながら生きながらえているエンジニアが、自分が死んだ後に犬の世話をするためのロボットを作る。このロボットと犬と共に、予測される気象イベントの脅威から逃れるためにセントルイスをたち、西海岸を目指すロードムービー。トム=ハンクス版の『地球最後の男』という趣向だけれど、人類の生存を脅かすのは気候であり、装備なしには外出できないというあたりに2020年代の気分があって、今日的な設定になっている。

犬好きには共感しかない話で、最後の10分は涙なくしては観られない。たとえ人類が滅びたとしても犬には生き延びてほしいというのが全ての飼い主の願いであれば。人間の登場人物は事実上、トム=ハンクスひとりであり文字通りの独壇場である。いうまでもなく、うまい。『グレイハウンド』に引き続きApple TV+での独占配信ということになるのだけれど、配給権を獲得したAppleにもトム=ハンクスをTV+のブランドアイコンにしたいという目論見がありそうである。

インベージョン #5

『インベージョン』の第5話を観る。身辺の不穏な体験の積み上がりの果て、テレビの向こうでは米国の大統領が地球外の生命体の侵入について警告する。この大統領はカマラ=ハリスを想起させるところがあって、してみると物語は現大統領の仕事を引き継ぐ数年後の設定か。

この回は比較的には尺が短めなのだけれど、日本では意外な人物が忽那汐里演じる大和美月に発破をかけたりして、これまでの暗中模索から、それぞれの動機に従って物語が動き出す展開点となり盛り上がりを予感させる良回。

TV

Montereyになってから初めてTVクライアントで映画をレンタルしてみたのだけれど、2時間弱の再生中に一度も異常終了がなかったので、少し品質が向上しているのではないかと期待している。今どき、OSの標準搭載なのにエラーで落ちないからといって品質が良くなったと言って良いのかは措くとして。エンディングまで通しで大丈夫だった経験の方が少ないのだから仕方がないけれど、確かに当方の期待値は著しく低いところにある。インターンに作らせたとまで言われたこのクライアントはCatalystの完成度を示すものだと考えていたのだけれど、であれば漸く仕上がってきたということか。

ゴジラvsコング

『ゴジラvsコング』を観る。レジェンダリー・ピクチャーズが『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』と『キングコング 髑髏島の巨神』から直系の続編として作った映画が、どうして『パシフィック・リム』と選ぶところのない話にならなければならないのかが、まず不思議である。これは世界観の無駄遣いというものではなかろうか。小栗旬も『TOKYO DRIFT』の北川景子のような扱いで、おそらくは編集段階で出演シーンの大幅なカットがされており、これでは芹沢博士も浮かばれない。

アダム=ウィンガード監督はホラーとサスペンスの名手ではあるけれど、怪獣愛の持ち合わせは疑わしく『ゴジラ』の前二作からすると、まずそこが大きく異なっているのではないかと思うのである。思い入れもないのに地球空洞説を扱うのは荷が勝ちすぎるというものだし、モンスター・ヴァースがこの路線で行くなら、かつての東宝ゴジラシリーズのような変質を目にすることになるだろう。

見どころは海上輸送中のバトルで、このイメージはちょっといいのだけれど、トレイラーに使われてしまっているので驚きはなく、一方でクライマックスの香港はその既視感に驚いたものである。ところで、この作品の興行は良かったようなのだけれど、えー、まじか。