2021年に観た映画のこと

前年の大河ドラマ『麒麟がくる』が2月まで続いたこの年、遅い開幕となった『青天を衝け』は、東京オリンピックの強行開催で放映スケジュールが中断されたにもかかわらず、年末に2回の60分拡大枠で帳尻を合わせて最終回に持ち込み、2022年にはどうあっても日常に回帰しようという気概を示した。

とはいえ、オミクロン株の出現によって年明けにはかなりのところまで押し返されるであろうというのが素直な見立てとなっており、事態はそう簡単に好転しないだろうとしか思えない年の暮れ。ワクチンによっていっときはこのパンデミックも収束かという雰囲気もあったからか、世間の半分は開き直っているような気がしなくもないのだが、それがどのような展開をもたらすか、この変異株についてわかっていることが少ないだけに、半年先さえ何人にも見通すことはできないだろう。2021年の終わりはだいたいそのような地点にある。

結局、映画館に足を運ぶことは一度もなく、引き続き配信だけで視聴生活が成り立っていたのだけれど、いつになく日本のテレビドラマを観ていた気がする。そして、Netflixに次いでApple TV+のオリジナルコンテンツもよく観た。オーソドックスな配給を支えるハリウッドのジャンル映画に充てる時間の減少が、いよいよ明らかになった年でもあったと思うのである。

逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!

年の初めは『逃げるは恥だが役に立つ』のスペシャルを正座して観て、もう思い残すことはないという感慨とともにTVerで繰り返し観て、ガンバレと言われれば人類として頑張ろうという気にさえなったものだが、年央でのガッキーの結婚発表である。星野源は呼び方としてガッキーというのはちょっと違う、自分は結衣ちゃんと呼ぶといっていたが、そこはそっとしておいてくれないか。

書けないツ!? ~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~

そしてたまたまTVerで観た『書けないツ!? ~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』の初回が面白くてこれにハマり、生田斗真もいいけど、山田杏奈は素晴らしいなという流派を立ち上げ、実は長井短という個性を知ったことも収穫で、『武士スタント 逢坂くん!』でも変わらず存在感を放っているのを嬉しく思っていたのである。深夜帯のドラマは侮れない出来のものが多いと認識を新たにしたものである。

お耳に合いましたら。

深夜帯ドラマでは特にテレ東系列である。『お耳に合いましたら。』はポッドキャストという日本ではマイナーなジャンルを扱っている興味で観たのだけれど、それ以上に伊藤万理華という個性の再評価の契機となったことが大きい。松本壮史監督の仕事でもあって、これは好きで観たドラマ。

「僕の姉ちゃん」

Amazonプライム・ビデオで全10話が先行配信となった『「僕の姉ちゃん」』は、テレビ東京系列での地上波放送が2022年という話で、主従の逆転は今後も顕著になっていくのではなかろうか。そういう意味では、テレビドラマというカテゴリの消滅が始まった年として記憶することになるのかも知れない。万物は流転し、その形を変えていくが、黒木華は至高。

俺の家の話、大豆田とわ子と三人の元夫

メインストリームのテレビドラマとしては宮藤官九郎の『俺の家の話』と坂元裕二の『大豆田とわ子と三人の元夫』を挙げるべきであろう。前者は家族の介護という前景のテーマが伝統的な死生観そのものに繋がっていくあたり、特に話の落とし方の凄味に震えた。

『大豆田とわ子と三人の元夫』は『Presence』という象徴的な楽曲の使い方も秀逸で、これは繰り返し聴いたものである。エンドロールを物語に被せる重層的なイメージは奥行きを作っていたし、美術についても細部まで作り込まれた良作だったと思う。

今ここにある危機とぼくの好感度について

名のある脚本家がきちんと重要な作品をものにし、NHKのドラマ制作がそれに応えるという流れはまだ生きている。『今ここにある危機とぼくの好感度について』は渡辺あや脚本の良さがよくわかるように増幅されたようなドラマで、まず役者のいいところもぎっしり詰まっていたと思うのである。現実世界の問題を射程に入れていることが明らかなストーリーが、シニカルでありながら、抑圧された当事者の痛みまで伝える絶妙なバランスと強度を持っているあたりは名人芸と言えるのではないか。

おかえりモネ、まともじゃないのは君も一緒

そして安達奈緒子脚本、清原果耶主演の朝ドラ『おかえりモネ』をNHKプラスで夜に観るという視聴習慣を5月から10月まで続けたのである。思えばこの物語のラストで予感されたコロナ後の世界を、再び見通せなくなった時間軸に我々はいる。成田凌とのダブル主演となった『まともじゃないのは君も一緒』も観て、清原果耶の演技の振り幅に感心したものである。

この茫漠たる荒野で

2月にNetflixで観た『この茫漠たる荒野で』はトム=ハンクス主演で、南北戦争後の変わりゆく時代を背景にしたロードムービー。ポール=グリーングラスが西部劇を撮るという期待に応える出来といえ、国民国家の分断という現代的なテーマを引き込んで非常に見応えのある作品になっていた。映画としては2021年のベストといえるかもしれない。

フィンチ

そして11月にApple TV+で観た『フィンチ』もトム=ハンクスによるロードムービーで、こちらは太陽フレアにより終末を迎えた世界を舞台にしたポストアポカリプスものだったけれど、気候変動と否応なしの行動抑制という今日的な話を内包し、何しろ犬の話でもあって泣く。

パーマー、オン・ザ・ロック

Apple Originalの映画では『パーマー』が再生の物語として、『オン・ザ・ロック』がいかにもA24という雰囲気のコメディとして、それぞれよく出来ていたと思うのである。佳作というべき作品が、まず配信に現れるというのは仕方のない流れではあろうけれど、これでは単館が成り立たなくなるのも不思議はない。パンデミックと巨大資本の挟み撃ちにあっては、いったいどうすればよいのか。

ファウンデーション

そしてAppleは今さら『ファウンデーション』の映像化にさえ取り組むというのである。アシモフには考慮外であったダイバーシティへの目配りも行き届かせて、それなりにクオリティの高い映像化ではあったけれど、物語の複雑さは如何ともし難く、既にして視聴者の多くが振り落とされているのではないという懸念もなきにしもあらず、Netflixでは『カウボーイ・ビバップ』実写版のセカンドシーズン制作中止というニュースもあったけれど、Apple TV+における制作姿勢の試金石になりそうな気がしている。

インベージョン

同じApple Originalの『インベージョン』は名の知れた俳優はサム=ニールだけで、しかも撒き餌のように第1話で退場という、地球が正体不明の生命体の侵略を受けるという壮大なテーマのわり、大作ではなくキャラクター志向の渋い物語で、タルコフスキーSFの雰囲気を汲むようなところもあって気に入った。忽那汐里が頑張っているので応援しなければならないと思っているのだが、『ファウンデーション』以上に続きが心配な感じでシーズン1完結となっている。

ゴジラ シンギュラポイント

SFの収穫として筆頭に挙げなければいけないのは、何といっても『ゴジラ シンギュラポイント』で、予告編で想像していたより数段上の出来栄えであったことは間違いなく、円城塔の脚本とボンズのアニメーション演出の幸福な融合に感嘆したものである。量子的な宇宙においてAIが人間原理を超越する特異点を超えたらどうなるかというテーマは、ゴジラが添え物にしか見えないほどに壮大で、実はこのあたりのバランスが絶妙に寄与していたのではなかろうか。円城塔のSF作家的野心の勝利という気がする。

ゴジラvsコング

レジェンダリー・ピクチャーズのモンスター・ヴァースはこれを支持する立場なのだが、『ゴジラvsコング』はちょっと微妙な線に来ていて、かつての東宝ゴジラと同じ轍を踏むのではないかと危惧するに至る。ゴジラは物語に位置づけると存在自体が特異点となり、それを上回る物語の強度が必要になることを『ゴジラ S.P』は示したのだけれど、定型を旨とするジャンル映画の方法ではこれに太刀打ちできないと思うのである。

TENET

伝統的なハリウッドの大作では、本当のところ劇場に足を運びたかった『TENET』をしかし配信で何回か観て、さまざまな作家と世界観の多様性が、実に人生を豊かにしていると当たり前のことに感動したのである。この描写をCG抜きで表現したいという価値観が、いよいよ意味をもつほどにコンピューターグラフィクスの技術も進化しているがゆえに、この作家性は尊い。

シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』は劇場公開の終了と同時にAmazonプライム・ビデオで配信ということになって、配信優位どころか、その新たな経済性の文脈すらよく理解できないでいる。

作品としては、この完結編は当方には満足なもので、四半世紀ぶりくらいに『VOYAGER』を聴いたし、庵野秀明を追った『さようなら、全てのエヴァンゲリオン』も観て、結局はこの監督自身への関心が大きいのではないかとすら思ったものだが、偉大な作品とはそういうものであろう。

グリーンランド、ドント・ルックアップ

巨大隕石の落下が文明の終焉をもたらす映画が好きである。今年はやや当たり年となって、一方の『グリーンランド』は実態としてはロードムービーだったとしてもその終末の雰囲気を楽しんだ。年末に来ての『ドント・ルックアップ』はその不足を埋めるかのように地殻津波の到来まできっちり描き、今ここにある危機のイメージまでコラージュすることで、現在進行形の滅亡を想起させる秀作だった。たぶん、制作が意図するほどスラップスティックに見えてこないのは、リアル世界の状況がシャレになっていないからである。

明日への地図を探して

タイムループものというのも既に手垢のついたテーマとなってしまっている気がするけれど、どんなジャンル映画にもときおり佳作が現れるものである。『明日への地図を探して』は感じのよいロマンスで、こうした拾いものが時々あるから映画探求にも果てがない。

海街チャチャチャ

韓流ドラマは既に継続的に観るべきものとなっていて、キム=ソンホとシン=ミナの『海街チャチャチャ』はこの秋の楽しみとなっていたのである。『イカゲーム』も一応、観たけれど、このデスゲームものが各国で大ヒットというのはちょっと理解を越えた話で、正統のツンデレ展開である本作の方がわかりやすくないですか。そうですか。

その年、私たちは

そして目下、プロダクションのレベルの高さに唸りつつ、年跨ぎで『その年、私たちは』をの配信を心待ちにしている。映画へのオマージュや作中作の構造もある本作には、好きの要素がぎっしり詰まっていて尊く、2022年を代表する韓国のドラマにもなると思っている。

DEATH TO 2021

そして今年の締めくくりも『DEATH TO 2021』で分断と対立、パンデミックと気候変動の深刻さを再確認して事態は来年に続く。