『TENET』を観る。観よう観ようと思いつつ、随分と先送りしてきたものだが、腰を据えれば150分の長尺も期待通りの内容で、クリストファー=ノーラン監督らしい映画的な悦びが詰まっている。周到に練られたプロットも「エントロピーの減少」を正当化するほどのロジックはないので、どこかトニー=スコットの『デジャヴ』みたいな強引さはあるとして、「考えるな、感じろ」とブルース=リーを引いてくるのが企みの深さでもあって、もちろん映画ならばこれは有りなのである。ロバート=パティンソンがすっかりいい男になっていたのもうれしい。
そして実写原理主義のクリストファー=ノーランであれば『ダークナイト』ばりの冒頭の爆発も本物なら、ボーイング747の機体も実物ということになるので、それぞれのシーンでのスタッフの苦労はいかばかりかと思われて、背筋を伸ばして鑑賞しようとも思うわけである。このリアリティこそ、映画を映画たらしめているものであり、ニールの最後のセリフも実に味わい深い。What’s happened, happened.とは映画の構造でもあるからだ。