『ハケンアニメ!』を観る。辻村深月の同名小説の実写化。斉藤瞳監督役で吉岡里帆、王子千晴監督に中村倫也。主要な登場人物では行城が柄本佑、有科香屋子が尾野真千子、並澤和奈が小野花梨となっていて、まず、キャスティングが素晴らしい。柄本佑は原作とはややイメージが異なる実装だけれど、このスーツ姿が上書きしてしまったのではなかろうか。そして、それを言うなら主演の二人だが、ことに吉岡里帆は彼女のいいところがくっきりと出て、いろいろ尊い。
脚本の政池洋佑は、三つの中編とエピローグ的な短編からなる原作を再構成し、新たに同時期、同時間帯に放映される2作の対決という対立軸を導入して128分という映画の尺にうまくまとめている。結果、後景化した原画請負会社ファインガーデンのパートも、悪くないアクセントとして活かしているし、全体として視聴率と円盤の売り上げという要素がやや強調されているとして、「覇権アニメ」というもともとのコンセプトにこそ架空の競争を捏造しているようなところがあるから仕方ない。そういう価値観は存在しないと思うのだが、どうなのだろう。
それもこれも措いて、吉岡里帆である。不器用で熱血、芯の強さの雰囲気を纏わせたら当代一ではなかろうか。耳にAirPodsをつけているシーンがあって、この巨大なAirPodsは特注なのかと思うくらい顔の大きさが小さいので、観ている方はびっくりして我に返る一瞬があるのだけれど、それはそれとして、脚本の要請に従い原作とも異なるキャラクターを確立して、すごくいい。メッセージのあるセリフは原作の特徴でもあるけれど、これを決めるのは簡単な仕事ではないはずである。
役者の仕事だけでも素晴らしいが、ところどころバシッと奥行きのある止め画を入れてくる吉野耕平監督の仕事ぶりも際立っている。全体のリアリティは、ネットとカリカチュアライズされた制作現場以外の現実、制作現場と三つのパートに別れていて、その対照によって現場のリアリティが強調される仕掛けとなっている。ゼーレを模した会議のアイディアは秀逸。これに手を抜いたところがないアニメーションのパートが加わり、重層化された世界観が立ち上がってくるのは全体演出の効果というものであろう。傑作だと思うのである。