『ムーンフォール』を観る。地球に最も近い天体で、太古からこれを見上げつつ、多くのパニック映画が月の落下を題材にして来なかったのは、人類があっさり絶滅することなく、いろいろあってもめでたしめでたしという展開が、そうそうないからだと思うのである。松本零士がロッシュ限界を超えて地球にめり込む月のヴィジュアルを幻視していたことを懐かしく思い出す。
本作は月の空洞説を正面から扱って結果、いろいろとハチャメチャなことになっているけれど、ローランド=エメリッヒのパニック映画であれば、許されるのではなかろうか。あらゆる距離が適当で、ご都合主義が赤面するほどの展開はまぁ、指弾されて当然として。『インデペンデンス・デイ』がありならこれもあり、という開き直りはあっていい。パニック映画の体裁ではあるものの『デイ・アフター・トォモロー』というより、どちらかといえばそっち方面の話。
本作を真性の駄作たらしめているのは登場人物の魅力のなさで、感情移入ができないので、結局はなんなんだこれはということになる。異常な高波でホテルの上層階に避難して、助けが来るまでベッドで熟睡しているというちょっと異様な展開があるのだけれど、その一事が万事なのである。パニック映画の要諦は危機が明らかになるまでの展開だと思うのだけれど、グダグダとしかいいようがない。