Netflixで配信の始まった『西部戦線異状なし』を観る。言わずと知れたレマルクの小説を原作とした2022年の映画。映像化としては1930年のリュー=エアーズが主演した映画が有名で、すでに一世紀近い年月が流れて何故、今さら再映像化なのかと問えば、それなりの時代的背景がある気さえする昨今。全編、ドイツ語の本作は、無論のこと近年の映像技術によってリアルに振った質感で、死も克明に描かれる。
冒頭、森の中で命を育む狐の親子と戦場の死者たちの対比に始まり、スケールを感じさせる光景と自然に属するものごとは美しく描かれるけれど、人間をすり潰していくシステムは、戦場の後方から前線に向かい、無関心か、嘘や煽動によって機能する。このあたりがいちばんの見どころかもしれず、1930年版であればラストシーンにあたるような無常感は全体に配置されている。映画としての文法は近年のもので、主人公パウルの死さえ、ある意味で特権的に描かれるのである。劇中、半世紀、戦争がなかったというセリフがあるけれど、この映画を作った世代は戦争というものを知らないのだということを強く感じさせるのは、実はこの劇的なラストのシークエンスかもしれない。