ミックステープ

『ミックステープ』を観る。西暦2000年前夜のワシントン州、両親の遺したミックステープに収録された曲を探すビバリーは、中古レコード屋の店主の助けを借りてブルーハーツの『リンダ リンダ』を聴く。日本語の歌詞の内容を知りたくて台湾出身の少女と知り合い、ミックステープの曲を追うことで自身の世界も広げていく。

死んだ両親のことを話そうとしない年若い祖母に実年齢でも50歳そこそこのジュリー=ボーウェン。主人公の少女たちがハイスクール前のドラマであれば、自分が歳をとったと感じざるを得ないが、青春ものとしては定石を上手く踏んだ佳作。ブルーハーツを使っているあたりは驚きがあって、実際、曲の使い方はうまい。そして中古レコード屋の店主を演じたニック=スーンは中堅の俳優らしいけれど、痩せたジャック=ブラックといった役回りでちょっといい。

鎌倉殿の13人

『鎌倉殿の13人』の第1回を観る。正味な話、18時からBSプライムの放送を観た上で、20時からの本放送も再見したのである。面白い。冒頭、馬での逃避行は『真田丸』の初回に寄せたイメージで、期待は否応なく高まる。どこまで面白い話なのだと思っていれば、川辺の不穏からの突然の暗転がまたうまい。愉快なやりとりと表裏になった地方豪族の葛藤や権謀術数の描き方が、相変わらずいいのだけれど、坂東彌十郎と片岡愛之助のチャーミングさがこれを一層、引き立てる。「お前の太刀打ちできる相手ではない」というセリフが陳腐に聞こえない坂東彌十郎が何しろ凄い。

そして新垣結衣である。本格的な時代劇は初めてということになるが、小栗旬との一連の会話は他のキャスティングでは成立しないのではなかろうか。際立った存在感は当然として「ばかをおっしゃい」という台詞回しのうまさはどうだ。『真田丸』と『逃げ恥』を生んだ奇跡の2016年の記憶を煮詰めたようなドラマなのである。

ゴシップ

『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』を観る。『僕の姉ちゃん』は最高だったし、黒木華が主演のドラマということであれば、チェックせざるを得ないというところだが、フジテレビのドラマで感銘を受けた記憶がないので、あらかじめ期待値は下げておいたのである。

共感性の低い人間として描かれる主人公 瀬古凛々子の台詞回しが綾波レイを想起させ、それが「ぞわぞわする」と『カルテット』のすずめの「みぞみぞする」に似たこと言うドラマといえば、その模倣っぽさが全体に通底しているところが特徴で、見どころ自体それしかないという感じ。黒木華も開き直って寄せているというところではなかろうか。勿体ない。

ネットニュースの「コタツ記事」を批判的に扱うドラマに、全体として既視感しかないという無自覚さが驚きといえば驚きで、率直にいえばコタツ記事そのもののようなドラマである。

輻輳

M1 ProのMacBook Pro 14″はさすがの出来映えで、特に不満もなく細かいカスタマイズをしながら使い込んでいるところ。LGの4Kディスプレイに繋ぐときはクラムシェルモードで使うことが多いので、BluetoothでLogiのMX KeyとMX Ergoを接続している。もう何年か、ポインティングデバイスはトラックボール中心の運用だけれど、Macについてはトラックパッドが便利な場合も多いので、キーボードの左にMagic Trackpadを置いて、腕が4本くらいあろうかというセッティングなのである。

ここに、ただ持っているからというだけの理由でMagic Mouseを追加したまではよかったが、さらにAirPods Proを接続すると時おり、ポップノイズが入って具合が悪い。Bluetooth機器の接続は公称で7台までということになっていたはずだが、同時接続5台ではオーディオの品質まで担保することが出来ないようなのである。AirPods Proの不具合かと思って、危うく第3世代のAirPodsに手を出すところだったのだけれど、実験的に確認してこの結論に至る。Webにもこうした情報はあまりないようだけれど、ポインティングデバイスを3台同時接続しようという人間があまりいないということであろう。当然のことながら。

この日、全国の新規感染は6,000人を超える。オミクロン株の拡大で先行した南アフリカでは感染のピークアウトに遅行して死者の数が増えていて、1-2ヶ月ではやはり何もわからないというのが本当なのだろうと思う。沖縄では医療従事者への感染が広がりそもそも医療行為の継続自体が難しくなっているというニュースもあって、来週には全国で同じことが起こるだろう。

荒れ野

『荒れ野』を観る。19世紀のスペイン。人里離れた荒野の一軒家に隠れ棲むように暮らす親子三人は厳しい生活を送っていたが、ある日、父親が家を出て母子が残される。困窮を極める日々を送るうち父の馬だけが帰還して、優しかった母の様子はいよいよおかしくなる。

19世紀から20世紀初頭のスペインを扱った映画は、生きるのが辛いという状況を扱うと一流の説得力があって、観る方も辛いという印象ではあるのだけれど、絵画的に作り込まれた画面がどの場面でも中世画のように美しいので、そのあたりが救いになっている。ゴヤ的な黒が全体を支配していて、母のドレスだけがアクセントのように深い赤であるのもその印象を強くする。暗い予感しかない物語ではあるけれど、タイトルからして『Wasteland』なのである。

大雪警報が東京にも発令されたこの日、全国の新規感染者は4,000人を超え、対数軸のグラフでさえ異常な立ち上がりを見せる状況となる。今すぐ全国的な行動抑制が必要であろう。

Mr. ノーバディ

『Mr. ノーバディ』を観る。平凡な家庭人が実は恐るべき経歴の持ち主という筋書きはアクション映画のやや使い古された定番といえるくらいで、トレイラーにちょっとコミカルで美味しいシーンが使われていたこともあってあまり期待はしていなかったのだけれど、この場合、トレイラーは正しく作られており、本編はその期待値を本格的な格闘という意表をつく領域で越えてくる。脚本のデレク=コルスタッドが『ジョン・ウィック』を書いていると聞けば、まず同じネタではあるのだけれど、自家薬籠中のものであり同じように面白いのである。

質量のあるアクションとオールディーズを要所のBGMに使う演出はテンポよく、カッコいいのでシビれる。主人公を演じるボブ=オデンカークも59歳とは思えない感じに頑張っていて、92分があっという間。新年早々これはアタリだと思うのである。

沖縄で600名を超える新規感染が確認されたこの日、東京でもそれを追うような急増がみられて指数関数的な増加そのままの垂直的な立ち上がりが現出する。この状況を緊張感をもって注視しているはずの政府は、ただ注視しているとして、特に策があるわけではないみたい。各国ではオミクロン株についてのデータが出始めているけれど、感染力の由来さえ定かでないこのウイルスを為すに任せることが得策でないことだけは確かだろう。

ダーウィンの鳥

『ルパン三世 PART6』の第10話『ダーウィンの鳥』を観る。これも押井守の脚本ということなので観ないわけにはいかない。ヘミングウェイに続いてダーウィンの話かよと思っていたのだけれど、衒学的なダイアログはいつも通り、どちらかといえば『天使のたまご』の解題のような話になっていて、オーソドックスな侵入もののエピソードとみせつつ、なるほど押井守なのである。それっぽい話なら満足という古参の旧弊がまず、これを肯定する。そして、今さら『ルパン三世』を観ている視聴者の層というのはどうなっているのだろうかということを再び考える。

この日、かねて予想されていた通り、アメリカ合衆国におけるCOVID-19感染確認が1日あたり100万人の大台を越える。このペースになると社会機能の維持という観点から隔離や回復の判定を緩めたいというインセンティブが強く働くことになる。年末にもCDCが隔離期間を10日から5日に短縮していたけれど、根拠となる知見はさしてないようだから、もはや追加接種だけを頼みとして強行突破の構え。ヨーロッパも概ねそんな感じで、本邦でも案の定、2類感染症の定めにある規制を棚上げしてあらかじめ自宅療養を選択肢に織り込もうとしているみたい。実質的に「コロナは風邪」の世界にシフトして行こうというのが2022年の景色ではあるけれど、それが何をもたらすのかは誰にもわかっていない。