気象庁の人々

世の中は大変なことになっているけれど、淡々と『気象庁の人々』の最新話を観ている。タイトルの通りの群像劇でもあるのがいいし、職場の司令室感がやっぱり好ましい。制作はいつものスタジオドラゴンではないのだが、きっちりレベルの高いドラマになっている。このところでは第4話のトリッキーな構成がなかなかの見せ場だったのだが、何だかんだといって話が面白い。パク=ミニョンの困り顔で話を駆動しようという方針は相変わらずではあるものの。

COVID-19の国内感染は統計的に事態を把握することが難しくなって久しいけれど、この数日、重症者の増加はピークを打ったようにみえている。特に何もしていないということを考えると、感受性が高いグループがあらかた感染したということになるのだろうか。

Smashed

最近のBBCワールドニュースはもちろんウクライナ情勢を中心に構成されているわけだが、この日は市民が団地の広場に集って、火炎瓶を制作する様子を取材している。モロトフカクテルの作り方は徹底抗戦のメッセージとともにウクライナ政府がTweetしているけれど、発泡スチロールをつかった実作業の様子からは士気の高さがうかがえる。英語教師だという女性が今これより大事なことはないとインタビューに応える姿は、祖国防衛という物語を味方につけたウクライナの強さそのものの表出でもある。CNNには前大統領のポロシェンコがよく登場して、首都防衛の現場でインタビューを受けているのだが、前回選挙でゼレンスキーに破れたこの富豪が戦闘服で前線にいる姿にはやはり感銘を受ける。

ロシアによるウクライナ侵攻が開始されて4日目のこの日、ついにハールキウ市内への軍車両の侵入が伝えられ、市街戦がはじまる。同時に路上に放置されたロシア軍車両の映像もあって、平和維持活動の名目で進軍の始まった露軍の士気はやはり高くないみたい。何をしても酔っ払い扱いというのは少し気の毒だとして、いかにやる気がなくても大軍が決死隊と衝突すれば多くの死者が出ることになる。

NO WAR

ウクライナ侵攻のさなか、ロシアがフィンランドとスウェーデンのNATO加入を牽制しようとしているのだけれど、もちろん現下に侵略を行っている国の主張であれば逆効果というもので、新たな勢力図を描こうというプーチンが何を目指そうというのかさっぱりわからない。この時点で首都キーフはまだ陥落しておらず、激戦も伝えられるなか夜が明ける。

イギリスは特に強硬な姿勢をみせ、米国も同調してロシアをSWIFTから除外する流れ。間違いなくロシアの市民生活にも深刻な影響が出て、それも長引くことになる。第2次冷戦といっても彼の国の影響力も経済力も結局のところかつてとは比較にならない。米国が正面を中国に絞ったのも、結局はその必要がなくなったからということなのだろうが、それがプーチンの劣等感を刺激して領土的な野心をもつことになったのだとしても驚かない。結局のところ、箴言を聞く機会のない独裁者には劣化する一方の道しかないのである。そして、この戦争の影響は短期間で収束することなく、その独裁者の余命が律速しそうな気配がある。

OSINT

ロシアの攻勢は続いている。この戦いのなかで全滅した島嶼防衛隊やMi-29でSu-34を6機撃墜したというパイロットが英雄的に語られ、ゼレンスキー大統領は首都の防衛を宣言する。この段階で、事態はロシアの望んだように展開していないだろう。大統領の亡命によって傀儡政権を樹立するというシナリオは潰え、ウクライナ首都での焦土戦が始まるという流れにおいて、国際社会はプーチンとその一党の資産凍結と没収という手段で徹底的に求心力を低下させる動きを継続することになる。この盗賊のような一派に対しては、それがいちばん効くのではなかろうか。

驚くべきことにTwitterへの投稿は全土で続いており、明らかな偽情報も氾濫するなかで、戦闘の断片をリアルタイムで垣間見る状況となっている。情勢分析を続けるOSINTアカウントが一時、一斉凍結されたのはロシアの仕業という情報も流れたが、ヨーロッパの戦乱において民間における戦争と情報のありかたは既に一変した。とはいえ、ウクライナが頑強に抵抗しているともいわれる前線の様子はほぼ伝わらず、この非対称はかえって凄惨な戦闘の状況を想像させる。

開戦前、国境に集結したロシアの部隊が5日間、食料の配給を受けていなかったという話もあって、もともと貧弱な露軍の兵站が、この多方面侵攻と本格的な地上戦を継続できるイメージもあまりないし、そもそもウクライナ全土の展開を考えるには展開兵力が少なすぎるという分析があったことも考えると、ウクライナの勝機はその持久にのみありそうだが、甚大な市民の犠牲をともなうことになる。この状況において、ロシアをサポートするすべての動きをこそ唾棄すべきであろう。

パーム・スプリングス

『パーム・スプリングス』を観る。2020年のタイムループものの映画。カリフォルニアのパームスプリングスでの結婚式に参加した男ナイルズが、その一日を繰り返している。そのループに途中から加わることになったサラは時の輪から脱出しようとあがき、いったんは諦めるけれど、一念発起して量子宇宙の謎を解明して日常に復帰する方法を見つけ出す。無限に繰り返す時間があるなら、知力を極めることで状況を解決できるはずという前向きな世界観はたいしたものだが、タイムループものとしてのアイディアは水準レベル。どちらかというと人生を取り戻すという人間的な復権に関心のある物語なので、ループの謎や脱出方法に意味を求めてはいけないということであろう。他人の結婚式の1日を繰り返すという恐ろしい設定ではあるものの、アンディ=サムバーグとクリスティン=ミリオティがいいので観られる。

この日、プーチンがウクライナに宣戦を布告して、露軍は縦深にウクライナ各地を攻撃する。核攻撃力に言及して国際社会を威嚇しつつ、アメリカがかねて警告したように首都キエフの占領を目指しているようにみえる。ここまでの横紙破りを予測した者は少なかったが、おそらくはロシア内部からのリークによって、米国はこの帝国の意図をあらかじめ知っていたということだろう。政権転覆が当面の戦略目的ということになるはずだが、電撃的な作戦によってそれが可能であるかはよくわからない。何より、プーチンは歴史にどのような名を残すことを望んでいるのだろうか。

子供はわかってあげない

『子供はわかってあげない』を観る。主人公の朔田美波を上白石萌歌、門司くんを『町田くんの世界』の細田佳央太が演じた2021年の映画。同名のマンガが原作で、監督は沖田修一。もとは2020年に公開予定だったので、上白石萌歌の実年齢と近いところでの撮影だったと思うのだけれど、この美波が実によくて、当人10代のベストアクトではないか。沖田修一の長回しの画面で、マンガみたいなマンガのキャラクターを演じてリアルとしかいいようのない美波を定着させているのは、この役者の仕事なのである。

冒頭の劇中アニメからして結構な尺なので一体、何が始まるのかという感じだし、風鈴や蚊取り線香といった夏の記号もそれっぽく使われるわけでなく、そうめんの代わりにうどん、スイカの代わりにバナナという話なのだが、夏の一回性を感じさせる物語の何と尊いことか。

この日、ウクライナ侵攻がなければ実施されるはずだった米露首脳会談の予定がキャンセルされ、そのことによって事実上の侵攻が認定される。未だGOPの有力者であるトランプが、プーチンを天才と褒めそやしたうえで、独立派の国家認定を口実とした進駐と同じことを米国がメキシコで行うこともできると発言したことが伝えられる。バイデンの支持率が低調であることを考えれば、コレが再び大統領に返り咲いてもおかしくない世界線に我々はいるのである。いやはや。

TWOSDAY

2022年2月22日、22時22分に東京の気温が2.2度だったことまで伝えられたこの日はロシアがウクライナへの侵攻を開始した日として歴史に残る。この国が明らかにした連邦安全保障会議の様子をCNNも繰り返し伝えているけれど、プーチンの前で居並ぶ幹部が順番に踏み絵にのる印象で、旗幟を鮮明にするまで許してもらえない様子には胃も縮み上がる。

この大統領は近年、さまざまな歴史書を読みふけって歴史認識について一家言を持つに至ったと伝える記事がことのヤバさを際立たせているけれど、バイデンが帝国主義を蘇らせたと批判していることにほぼ誇張はなく、ネトウヨが核抑止力をちらつかせながら領土的に野心を成就させる決心をしたという以上の説明は必要ないみたい。まじか。