Any time soon

このところで薄寒い思いをしたのは、マクロンと会談したプーチンが冷戦後のNATO拡大について繰言を述べていたというニュースである。その主張は、3年前の会談から大きく印象が変わったというコメントもあって、晩年に差し掛かった独裁者がどんな思想の毒にやられていてもおかしくない現実の恐ろしさを垣間見る。それ以前、単に老人性の痴呆の進行とともに即物的な損得勘定ができなくなっている可能性だってなくはないのだ。その一存で大規模な武力行使が決断されるとして、これを押しとどめる力は作用しないのではなかろうか。もう数日、いつウクライナ侵攻が起きてもおかしくないというニュースが続いている。

COVID-19で確認された国内の死者はこの数日、これまでのいかなるピークをも越えて過去最高を更新し続けているのだが、全体として成り行き任せの状況が続いている。さきに規制そのものを撤廃したデンマークもあらためて死者が増加しているわけで、結局は酷薄という印象しかない政策が支持を得ることは難しいだろうと思うのだが、何より新たな変異種はこうした状態から出現することになるだろう。

気象庁の人々

Netflixで配信の始まった『気象庁の人々』の第1話を観る。一応、パク=ミニョンとソン=ガンの主演によるロマンスということなのだけれど、それぞれ恋人に裏切られる導入でラブストーリーとしてはよくある展開。パク=ミニョンは直径5mmくらいのヒールで床に穴を開けつつ機動しており、得意の憂い顔が主となる役回りで、しかし今のところいいとこなし。パク=ミニョンの不幸で話を転がそうという世の流れはどうかと思うけれど、それがまた合っているのである。

面白いのはロマンスよりお仕事ドラマとしての部分で、韓国気象庁の予報局を舞台として、各地の予報台を繋いだオンライン会議の場面は司令室ものが好きな向きにはたまらない山場。警報の発令とともに、社会のさまざまな場所でこれに対応した予防保全を行う描写がきちんとされているあたりは燃える。こういうシーンの挿入があるかどうかで物語の厚みは大いに変わると思うのだけれど、気象という題材の味を十分に引き出す演出で、かなり面白いドラマになるのではなかろうか。期待は高まる。

白頭山大噴火

『白頭山大噴火』を観る。タイトル通り、白頭山の噴火に始まるディザスター映画だけれど、核爆発で破局的な噴火を阻止するという2006年版の『日本沈没』みたいなミッションが主軸となり、そのために北朝鮮のICBMのウォーヘッドを奪うという話で、ハリウッドのアクション大作みたいなつくり。核兵器の情報を握るのがイ=ビョンホンの演じる北朝鮮工作員で、マ=ドンソクが田所教授の役回りなのでキャストもおごっている。ぺ=スジも出ているのである。128分の長尺とはいえ、いろいろと盛り沢山なのでかなり忙しい展開となり、もたもたしているところはないとして危機さえも早送りなのだけれど、ハリウッドタイプのストーリーをきちんと作れるのが韓国映画のすごいところである。

北への侵入作戦というデリケートな題材は、第1波の噴火で北朝鮮の政体が事実上、消滅したことにして消化しているのだけれど、米国と中国という二大国の横暴はきっちり描かれていて、ことに米軍の駐留基地に押しかける避難民に対して米国領への侵犯が警告されるシーンには『グエムル-漢江の怪物-』からこっち時々顔を出す政治的な独立についての意識の高さが窺え、今や幸福な奴隷という域にある本邦との差は大きい。

全体として貧乏くさいところはなく、SFXもそれなりで劇場鑑賞の価値を感じさせる画面なのだけれど、白頭山の描写にも2006年版『日本沈没』を想起させるところがあって、この風呂屋の書き割りがリスペクトだとすれば皮肉の意図も勘繰らざるを得ない。

宇宙年代記

小説というのは長ければ長いほどいいという流派があって、どちらかといえばその思想にシンパシーを感じるほうだから、電子書籍でも全巻合本版にはつい手が出てしまうのだけれど、Kindleのセールを眺めていると光瀬龍の『宇宙年代記 合本版』があったのでこれを買い求める。短編25本と『東キャナル文書』『喪われた都市の記録』の長編2本を収録して、文庫なら1,500ページを越える分量だが、そこは電子書籍のよさがある。角川文庫でまとめられたのは5年くらい前のことらしいが、電子の海の向こうの事象を見通すのは容易なことではない。知らなかったのである。

冒頭から宇宙の荒涼とスケールを感じさせる筆致の物語で、読んだことがあるはずのあれこれを思い出しながら読んでいるのだけれど、まずあらかた忘れている。幸せなことである。

朝からの雪は夜まで降り続き、この地方では7年ぶりの積雪量となったようである。この時勢であれば当然、在宅勤務となるべきところ、それを許さぬ渡世の事情があって20時近くまで会社。帰り道はピーク時間を過ぎてかえって交通量も少なかったようだから痛し痒しではあるものの。歩けば沈み込む深さの雪といえば、なるほど久しぶりで、ゆっくりとすすむ。

みなし陽性という行政用語が編み出されて以降は新たな感染確認の人数も参考値程度ということだと思うけれど、都内では相変わらず2万に迫る人数となり、これを伝えるのが「前週を下回る」というキャプションでは一体、何を見ているのかということになる。人口あたりでいえばUSの状況を上回っているのが足もとの状況であれば、これを茹でガエルと言うべきであろう。

隠蔽

神奈川県は検査陽性率の公表を取りやめることにしたそうである。事実を簡単に隠蔽しようという本邦の体質が、だいたい不幸の始まりだ。政治はどこまでも劣化し、行政は粛々と人間をすり潰すというのがこの国の現在地だというのは点と点を繋げれば、だいたい明らかなことのようである。ひどいね。

引き続き『ミステリと言う勿れ』を観ている。このドラマに当初からつきまとう歪さはますます増幅し、フォーマットに囚われない一話の構成はクセになる。面白い。

急増

COVID-19の新規感染確認は連日、曜日として最多を記録していく様子だけれど、異様な検査陽性率の高止まりは実態が追えていないことを示しているので状況はさらに悪い。何しろ5割どころか8割を越える自治体もあるのだから、明らかな感染者が順番待ちをしているような感じなのである。

直近の死亡者は急峻に増加して、過去のピークを軽く超えていく勢いをみせている。10万人あたりの感染者はすでに欧米に近い水準となっている以上、これまでとは異なる事態が現出することになるのは時間の問題で、前日付で厚生労働省が「オミクロン株に対応した広域火葬計画の整備」について指示を出したことが伝えられる。ひとの死をこそリアリスティックに扱うことが求められる行政の仕事はもちろん存在し、数理として先を見通そうとしているわけだ。大局においてこれからの事態はその読みの通りに推移するのではないだろうか。