平家物語

『平家物語』第9話のタイトルは『平家流るる』という流浪の印象で、平敦盛と熊谷直実のくだりがあって、全編のクライマックスも近い。「荒夷に名乗るような安い名はもっておらぬ」という感じの話になっていないのは現代的な演出というものだが、海へと追い詰められていく平家の一群というイメージには確かな世界観があって素晴らしい。これが演出の力というものだと思うのである。

Ultra

この日、ロシアに占領されているチェルノブイリ原発への送電線が破壊され、使用済み核燃料の冷却ができなくなったことが伝えられる。非常時にこうしたレベルの危機が頻発するようでは、少し間の悪い偶然が重なっただけで取り返しのつかない事態に発展することになるだろう。起きる可能性のある最悪の状況が、いつ起きてもおかしくない状態に世界はある。

M1にPro、MaxときてUltra登場という展開に、Mac Studioの仕様を眺める。手元ではM1 ProのMacBook Proもそのポテンシャルの1割も使っていないだろうから、もちろん眺めるだけなのだが、ちょうどM1 Maxを2つ、つなぎ合わせた格好のダイの写真には笑う。20コアのCPUに64コアのGPUという話は、以前どこかで噂になっていて、べらぼうな話だと聞いていたのだけれど、こうして実現してくるのであれば以降はシュリンクに応じてコア数が増殖するのであろう。すごい。

置き換えが済んでいない商品ラインはMac Proのみになったということだけれど、これがM1 Ultraを複数チップ載せていくるというのであれば、もう何だかわからないほどすごいことになるであろう。

クワイエット・プレイス 破られた沈黙

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』を観る。冒頭、地球外の怪物が到来する以前のシーンにはジョン=クラシンスキーが登場し、実生活でもパートナーであるエミリー=ブラントと夫婦の日常が描かれるが、終末は速やかに到来してタイトルのあとは前作から地続きのサバイバルとなる。原題は『A Quiet Place: Part II』で、きちんとした続編なのである。

久しぶりにキリアン=マーフィーをみた気がするけれど、年なりの貫禄がついて以前とは雰囲気がちょっと違うみたい。何しろ見慣れない髭面だ。

それはともかく、SFというよりはホラーとして秀逸な設定で97分のコンパクトな尺にいろんな危機が用意されていて、ジョン=クラシンスキー監督の演出はキレがあり見応えがある。アボット家の子供たちが事実上の主演で、その熱演は素晴らしく、ひょっとすると『PART III』に続く。

ザック・スナイダーカット

『ジャスティス・リーグ』のオリジナルとしてファンに渇望され、幾多の曲折を経て世に出た『ザック・スナイダーカット』はやはり観てみたいと思っていたものの、242分という尺をみるといささか怯む。4時間である。もともと話が長いタイプではあるものの、6部構成にエピローグという話であれば、配信の1シーズンにしたほうが素直にみえるほどである。作品の出自そのものが多次元宇宙化しているし、以前観たはずのオリジナル劇場版の記憶も定かではないので、まずまるっきりの新作といっても納得するにやぶさかではないのだが。こういう話だったっけ?

この日もウクライナでの戦争は続いている。ロシアは主要都市のいくつかで、民間人の実質的な封じ込めを行った上で、退去していないからには民間人ではないというロジックでこれを攻撃対象に含める作戦を展開しようとしている。そのような合理化が許されるのかということであれば、チェチェンやシリアで実際に行われてきたことなのである。そうでありながらhumanitarian corridorsというのは、悪魔的な呼称であろう。

KOORUI

このところ作業中にニュースを流していることが多いので、LGの4Kディスプレイの横に27インチのゲーミングディスプレイを置いて、デスク周りの司令室感を増強している。もともとメーカーにこだわりがあるわけではなかったけれど、聞いたことのないKOORUIというブランドの製品がコストパフォーマンスでは抜きん出ている印象で、中国のHKCの自社ブランドらしいというので買い求めてみる。2-3万円の出費だし、サポートには期待が持てそうにないけれど、OEMで培った技術力を侮るものではないと思うのである。

届いた製品はミニマルな印象のデザインで、ロゴも出しゃばるところがなく、つくりも画質も申し分ない感じ。実に確かな仕事ぶりなので、製造業の中心は既に西に遷移したということを改めて思ったものである。144MHzのリフレッシュレートで使っているけれど、今のところ不具合はなし。

この製品はAmazonでしか売っていないみたいだし、何ならホームページすら見当たらないのだけれど後日、Amazon経由でサポートメールが届いて、どうやらディスプレイアームにクレームをつけた顧客と思われているようなのである。文面からはネイティブの雰囲気もなく、つまりこれはフィッシングメールなのであろうか。メールの差出人は確かにAmazonマーケットプレイスなのだが、この怪しさにはある種の懐かしさもあり嫌いになれない。妙なオチがついたけれど、まぁ、商品自体は全然悪くないのである。しかし、サポートが橋本環奈を名乗るのは、さすがにやめておいたほうがいいと思う。

暗数殺人

『暗数殺人』を観る。連続殺人を仄めかしながら司法を嘲笑う容疑者をチュ=ジフン、その捜査を続ける刑事を『チェイサー』のキム=ユンソクが演じている。内に秘めた何かを感じさせながら、ほとんど感情を露わにしないこの刑事が実によく、その奥行きのある演技ゆえ、実話をもとにしたというこの話の登場人物の実在性を打ち消している。

まず実際には居そうにないので、どこまで脚色されているのか気になったわけである。そのあたりを措くと、練られた脚本と優れた役者の仕事ぶりによって上質な仕上がりの映画になっている。同じく捜査に人生を捧げて今は駐車場の係員となっている老人が、犯人の目論見を言い当てるくだりが妙に好き。

緊迫

マクロンが最悪を予感したその日の深夜、欧州最大のザポリージャ原子力発電所で戦闘が起き、火災が発生したことが伝えられる。原子力発電所は間違いなく重要な施設である以上は兵力を割かなければいけないという意味で守勢にとっても厄介なはずである。しかし、誰も手が出せないという点で戦略的には中立のような気がしなくもない。とはいえ、現に火の手が上がったというニュースに資本市場は大きく値を下げて、世界の不安を代弁する。ロシア指導者の理性をもはや誰も信用していないようである。

片棒を担いでいるルカシェンコが、ウクライナ侵攻の作戦地図を前に演説をぶち、それを制止できずに立ち尽くす将軍の写真がミームになっていたけれど、このグロテスクな喜劇が引き起こしている地獄の沙汰は続く。