門出の桜

テレビを見る習慣がないので『京都人の密かな愉しみ Blue 修業中』の新作が今週の土曜日に放映されることを、またしても実家からの連絡によって知る。このあたりの捕捉には抜かりがあったことがない。そして初代『京都人の密かな愉しみ』を受けたこのシリーズも、この作品をもって完結となるらしいのである。公式ページの「足かけ5年」の記述には、ある種の感慨深さが込められている。相楽樹から吉岡里帆への主役交代、江波杏子の死去、COVID-19もあっての5年といえば、もちろんただの5年ではなかったのである。季節は春、テーマが修行時代からの卒業という話であれば、大団円を今から楽しみにしている。

常盤貴子が二十四節気につながる名前を持つ主人公 三八子を演じた前のシリーズも全5作だったけれど、後半は少し持て余したような感じもあって、最後はフランスに旅立つというある意味で驚愕の結末で、『散る桜』と副題がついていたのである。主要キャストを5人も据えた『Blue 修業中』は群像劇であるがゆえにその轍は踏まず、『門出の桜』というのも心強い。このうえに新シーズンはあるだろうかという点が気がかりではある。

ステーション・イレブン

『ステーション・イレブン』を観る。エミリー=セントジョン・マンデルの小説のドラマ化で、第1話はインフルエンザに似た疫病が瞬く間に広がり、文明が終わるその前夜の出来事と8ヶ月後、ほとんど無人となった世界に足を踏み出すまで。そして、それよりかなり後の世界について。

COVID-19を経験した後の世界で、グルジア風邪と名付けられた死病を題材にした本作のタイミングはよいのか悪いのか。しかし、この映像化はかなり前に読んだ原作をほとんど忠実に画面に定着した印象で、雰囲気は全然悪くない。そのパンデミックのさなか、舞台となるシカゴの人々はノーマスクで苦しそうに咳をしているわけだが、さすがにマスクを着けるくらいの適応はするだろうとは思うとして。

スーパーで買い込んだ食料を、連結したカートで運ぶシーンがあって、そのあたりは以前、小説で読んだ通りのイメージだったので驚いている。ことによったら遡及的に記憶が形成されたのかもしれないが、原作の世界観そのものが大事にされているのは確かだと思うのである。

モンタナの目撃者

『モンタナの目撃者』を観る。アンジェリーナ=ジョリーが任務での経験からトラウマを抱える森林消防隊員の役で、事件の目撃者となった少年を助けて殺し屋と戦うことになる。そのまま『刑事ジョン・ブック』みたいなプロットなのだけれど、いかにも、90年代のハリウッド映画を想起させるわかりやすいサスペンスで99分にきちんと設計された物語が詰められている。隠しようのないマチズモが露呈する序盤はどういう話かと思ったけれど、そのあたりを全部潰しにくるあたりはアンジーっぽくて、いっそ気持ちがいい。山火事とか落雷とか、壮大すぎるモンタナの自然で作るスペクタルが話を地味にしていない。実はSmokejumperが登場する脈絡もないのだけれど、そこはそれ、画としては映えているのである。

『鎌倉殿の13人』は第20話にして義経の末路が語られる。わかっていることだけれど、この先も乱と変ばかりであれば、我々もこれに慣れる必要がある。

おいハンサム!!

『おいハンサム!!』を観る。吉田鋼太郎が父、MEGUMIが母、男を見る目のない三姉妹が木南晴夏、佐久間由依、武田玲奈というキャスティングがまずいいのだけれど、どうやら演出と脚本の仕事が素晴らしい。やや名言の連続、端から立っているキャラクター、心の声、反復、細かく共鳴するエピソードは全体として好きとしかいいようのない風に繋がっている。下げられそうな薬味を「まだ使います」ととどめるあたりもいいのだけど、とにかくものを食うドラマは信用できる。

MEGUMIの役者としてのよさを知らなかったのは自分だけであろうか。木南晴夏の口元のうっすらとした表情も素晴らしく、無論のこと武田玲奈はこれが今のところの代表作ということになるだろう。いろいろいいので過呼吸気味だけれど、令和ホームドラマの傑作として語り継がれるであろう。

REMOTE DESKTOP

Apple SiliconのMacBook ProでWindowsを動かす必要はないのだけれど、そういえばMicrosoft Remote Desktopがユニバーサルアプリになっていたので、これを導入してみる。M1からWindows11にリモート接続するというのは新機軸で、フルスクリーンで違和感なくきっちり動くので感心する。ローカルネットワークのなかの話なのでパフォーマンスも問題なく、何なら動画も動くのである。必要ないけど。

Windows11をMicrosoftアカウントに切り替えて使っていると、Windowsでパスワードを使ったログオンした実績がないとうまく認証出来ないことになるみたい。そのせいで何回か接続に失敗したけれど、Windows側で解決しなければならない話なので、これはややハードルが高い。

macOSはユニバーサルコントロールが完全に実用になっていて、Windowsとのリモート接続も問題ないので、デスクトップレイヤーの統合は進みつつある。面白い。

愚民化

キリスト教の伝統的な価値観では、パン屋の息子はパン屋になるべきということになるという話があって、つまりその成立が階級社会においてであった以上は、現状肯定のロジックは思想として内包されており、敬虔な信者ほど教育や教養の価値を認めず、身分を固定する方向に行きがちというのも、まぁ、ある話だと思うのである。信心深い人間が、老いて差別主義者になることは多いが、結局のところ、もとからそうだったのではないかと思うことにしている。

維新の議員が高等数学は学校に不要などと言うのには、どうやらそうした奥行きもなく、ただ自らが愚かであることを認識できない程に愚かだからという点に疑いはないのだが、同時に差別主義者であるから外形はまったく同じだったりする。

かように、広くみると権威主義的な輩というのは愚民化に熱心で、であればこそ民主主義を機能させる基盤として、憲法は社会権としての教育を受ける権利を定めているのである。国会議員が教育の内容に口を出すことこそ、身の程を弁えるべきであろう。

Workflowy

もともと生産性ツールは好きなのだけれど、最近になってアウトライナーのWorkflowyを使い始め、まだFreeプランを利用しているのだけれど、かなり居心地がいいと感じている。アウトライナーというのは基本的なシンプルなツールなので、用法を間違うとただのリストになってしまうのだが、ものの本まで買い込んでその真髄を習得しようという覚悟である。

クラウドベースのアウトライナーといえば、競合にdynalistがあって後発ながら細かい機能の充実ではWorkflowyに勝るところがあり、人気を二分しているみたい。Workflowyの特徴といえば、Zenの境地にも似たそのシンプルさで、タスクリストのチェックボックスひとつ排除しようという慎重な実装方針に好感がもてる。タスクの完了は打ち消し線一本引けばよいと言われれば、その通りである。Escキーで検索に遷移するデザインにすら発見がある。基本的にキーボード操作で完結させようという玄人っぽさもいい。結局のところ基本性能を保証するのは、そうした基本的な部分なのである。

Freeプランだとブロック数の上限があって、まずそこまでは使い込んでみようと思っているのだけれど、もう課金しようという気にはなっている。結果としての見出しとその構造が重要なのではなく、思考を言語化することとアウトプットの構造化が、作業として重要だということが、体感として理解できるようになってきたところ。