戦後

ロシアのウクライナ侵攻は、戦後のヤルタ体制を最終的に終結させたという文章を読んで、つまりそういうことなのだと思う。

ロシアが一刻も早く戦争を終結させたいと考えているのは間違いないが、それには成果を手中にすることが前提で、ウクライナの実力によって阻止されている。ことここに至り、ウクライナにはロシアに譲歩をするつもりがない以上、ロシアは帝国として復活するどころか、その地位は時間とともに低下していく。

国際社会は新たな国際関係のパラダイムとそれがもたらす秩序を模索することになる。国連安保の常任理事国というシステムの再構築が重要なアジェンダとなって、遅かれ早かれロシア抜きの体制が組まれることになる。ドイツと日本にとって、それはもっとも大きな変化をもたらすことになるだろう。この流れであれば、競ってその軍備を拡張し大国としての発言力を確保しようとする予想には違和感がない。

平和の配当を返上しようという動きが、暮らしを豊かにすることは決してないだろう。まして、富の源泉が知識に移行していくなかで、資源が前時代的に浪費されるのであれば、これは一層、暗いシナリオということになる。

/MIR

Windowsのrobocopyコマンドを使ってバッチファイルを書き、かつてはフォルダをそのままバックアップするようにしていたのだけれど、このところOneDriveを主に利用しているので、ファイル管理はクラウド任せで、自分で何かやろうという習慣が途絶えていたのである。

そうはいっても世代の古いファイルは定期的にバックアップ用のフォルダに移して運用すべきだろうと思い立って、改めてスケジューラーにrobocopyコマンドをセットして試しに起動させてみた。作業としては1、2分のことだ。そうはいっても、これまでの何年か、めぼしいファイルを格納してきた別ドライブのバックアップ用フォルダをコピー先に指定した結果、配下のファイルの蓄積が一瞬のうち全て消える。robocopyのMIRオプションは強力で、もとのディレクトリ構造をそのままコピーしてくれるのだが、つまりコピー元に存在しないファイルは消し去るのである。まいったね。

鎌倉殿の13人 #19

『鎌倉殿の13人』を観る。平家滅亡の直後から暗転を始める義経の運命という重い展開ではあるものの、行家と文覚という二人のコンマンの見せ場があり、坂東彌十郎時政の決め台詞もあって、いわゆる鬱回とはちょっと違う。しかし、次回予告には一瞬、善児が映っていたので衝撃に備えなければならない。

この日、フィンランドが永年の軍事的中立を転換し北大西洋条約機構に加入する方針を正式に決める。近いうち、スウェーデンもこれに続くことになり、欧州の地政学的状況は緊張方向に大きく傾くが、そもそもプーチン大統領との電話会談を行った直後と言ってもいいタイミングでの申請は、ロシアの行く末について少なくともその軍事的脅威を大きく査定していない結果のようにもみえる。隣国のならず者国家が没落するに任せるとして、関与することを拒否する意思表明だとすればこれもある種の中立政策ではなかろうか。

みをつくし料理帖

『みをつくし料理帖』を観る。原作の小説はこれまで何回か映像化されていると思うけれど、松本穂香主演で角川春樹が監督した2020年の映画版。以前、NHKでは主人公の澪を黒木華が演じたドラマをやっていて、楽しみにしていたものである。この映画も全10巻の原作の前半、ドラマとほとんど同じ時間軸を扱っていて、しかし映画の尺であるからにはダイジェストのような印象は拭えない。一方が黒木華であれば、比べられる松本穂香も気の毒というものだし、終盤は連載打ち切りの漫画のように強引な帰着にならざるを得ないところもあって、どうしてこの映画を撮ろうと思ったのかちょっと腑に落ちない。何なら前後編の二部構成にしてもいいところだが、そこまで腹を括っている様子もないのである。

この日、COVID-19による日本での死者が3万人を超えたことが伝えられる。1万人から2万人への増加に290日程度かかったが、そこから3万人には3ヶ月というスピードで、オミクロン株も弱毒化などしていないというのが現在の結論なのである。この深刻な感染症の扱いは、事実に反するかたちで矮小化され希望的なエンデミック化が進行しつつあるが、ワクチンの効果の剥離とともに目を逸らすことができない被害が積み上がっていくことになる。

スクリーム(2022)

『スクリーム』を観る。シリーズの映画としては第5作目、第4作の直接の続編だけれど、2015年に亡くなったウェス=クレイヴンが監督していない初めての作品となる。ワインスタイン・カンパニーの閉鎖のあとも生き残った企画としては原点回帰を売りにしたい様子で、第1作への強い執着に特徴のある脚本になっている。初代は1996年の作品だから、ほとんど四半世紀経って本作は日本での劇場公開もなかったし、もとの映画を観ていないと面白さはまったくわからないだろうから、ほとんど中高年向けの作品だろうけど、若い世代とネーヴ=キャンベルらのレガシー世代が共演しているのでファンにはうれしい。劇中の映画『スタブ』に自己言及するのが流儀になっているけれど、Netflixで配信中のフランチャイズシリーズに対する敵意がほの見えるやりとりもあって、映画こそ本家本元の矜持はあるみたい。

冒頭のシーンには当然のように固定電話が鳴り響くのだけれど、今どきの話であれば固定電話がかかってくること自体が薄気味の悪い話といえ、時代の移り変わりはそこにも現れる。シドニーとデューイ、ゲイブは中盤からの登場で、この人たちももう50歳前後というところだろうから、相応にくたびれている。映画とスラッシャー映画のルールについて登場人物に語らせるフォーマットは健在で、自己言及がジャンルの衰退を意味するのであれば、この分野もかれこれ25年衰退し続けていることになるが、まずまず面白い。どうやら第6作までは制作が決まっているらしいのだが、とはいえ、さすがにそのあたりで打ち止めということになるのではなかろうか。

渡河作戦

この日、ドネツ川に架橋しようとしたロシアの侵攻軍が、ウクライナの反撃に遭い大損害を被ったらしい一連のTweetをみる。いうまでもなく、現在の戦争も地形と天候に従い、補給と有限の軍事的資源がその遂行を左右する。多くの歴史が渡河作戦の失敗をその後の潰走と絡めて語ることを考えると、今さら侵略者側の目論見が達成されることもないようにみえる。

しかし、グローバルな経済体制に組み込まれいかなる産業のサプライチェーンも自国完結出来なくなった国が隣国に侵攻するとは考えられないという道理もまた、見た目にはそれ以外にないように思える以上、軍事的勝利の積み重ねが戦略に寄与するのは、ロシア国内の動きに連動する経路を辿るしかない気もする。独裁者の打倒だけが、わかりやすい帰結を教えてくれるだろうが、現時点ではそれには長い時間がかかりそうである。

断線

引き続きCOVID-19の影響を受けた21年度も、儲かっている会社は儲かっているらしい決算のニュースが続いているけれど、足もとの不確実性はどこも高まっているに違いなく、例えばアップルの製品は上海ロックダウンの影響でかれこれひと月、納期が6月という状況にあって、つまり1年のうちの何割かの売り上げの計上が延期されているのだから、今期業績への影響もやがて顕在化するのではないか。これを回復させるとして、製造のキャパシティをスケールアップしないことには、流通から蒸発した在庫を復活させるのも容易なことではないが、そもそもキャパを増やすにも調達が滞る状況なのである。

分断されたグローバルサプライチェーンが正常化をみるのは、数ヶ月よりも長いスパンになると思う。自動車でも工場の操業が低下してる様子だけれど、売り上げが立たなければ費用の投下を抑えるというわけで、悪影響は波及的に拡大して家計にたどり着くことになる。我々はちょっと想像のつかない大混乱のなかにあって、それを感知できずにいるだけなのだ。