鎌倉殿の13人 #29

『鎌倉殿の13人』は善児が2代目のトウを義時に紹介する場面から始まる第29話。死んだ梶原景時から託された善児宛の巾着の中身を、義時は見ていないと言ったが、この義時が北条宗時の遺物によって下手人を知って、既に善児の天運が決まっていたとしても驚かない。この先、北条義時と三浦義村が、腹に仕舞った企みの多さを競う展開になると思うのである。

この回では謎の多い泰時改名の経緯をなるほどという感じのエピソードにして、さすがという感じ。頼という字を改めようというからには、実際にもこのような経緯があったのではないかとすら思ったものである。

Stray

基本的には犬派だし、ゲーミングPCを所有していてもゲームはほとんどやることがない人間なのだが、サーバーパンク世界をはぐれ猫が彷徨う『Stray』を試したくなってゲーム用のコントローラーまで買い求めてしまう。Steamのダウンロードは6GB程度で、さほど大きなサイズでもないけれど、PS5に最適化されていることもあって映像世界は美しく、猫はきちんと猫であって、見届けたいという気になる。

大阪府議会で大阪IR誘致の賛否を問う住民投票条例案が否決され、19万人の署名に対する敬意のない扱いが話題になっているけれど、議論を行わない与党維新勢力の姿勢もさることながら、議会中継はチンピラに占拠されたような府議会の様子を映し、その酷さにはあらためて驚く。統一教会という補助線を引くことで、なぜ自民党の政治があそこまで醜悪なのかよく理解できるようになってきた昨今だけれど、維新についても反社会的勢力の浸透を想像するのが妥当というものであろう。そしてやはり、議会の中継は民主主義にとって必要なものであり、公共放送にはこれを義務づけるべきだろう。

ムーンフォール

『ムーンフォール』を観る。地球に最も近い天体で、太古からこれを見上げつつ、多くのパニック映画が月の落下を題材にして来なかったのは、人類があっさり絶滅することなく、いろいろあってもめでたしめでたしという展開が、そうそうないからだと思うのである。松本零士がロッシュ限界を超えて地球にめり込む月のヴィジュアルを幻視していたことを懐かしく思い出す。

本作は月の空洞説を正面から扱って結果、いろいろとハチャメチャなことになっているけれど、ローランド=エメリッヒのパニック映画であれば、許されるのではなかろうか。あらゆる距離が適当で、ご都合主義が赤面するほどの展開はまぁ、指弾されて当然として。『インデペンデンス・デイ』がありならこれもあり、という開き直りはあっていい。パニック映画の体裁ではあるものの『デイ・アフター・トォモロー』というより、どちらかといえばそっち方面の話。

本作を真性の駄作たらしめているのは登場人物の魅力のなさで、感情移入ができないので、結局はなんなんだこれはということになる。異常な高波でホテルの上層階に避難して、助けが来るまでベッドで熟睡しているというちょっと異様な展開があるのだけれど、その一事が万事なのである。パニック映画の要諦は危機が明らかになるまでの展開だと思うのだけれど、グダグダとしかいいようがない。

感染爆発

この日、全国の新規感染確認は23万人を超え、東京は4万人となって過去最多を更新する。検査陽性率は100%に近いことなって、実態は結局わからない。先週1週間の新規感染者は既にピークを過ぎた他の先進国を抜いて1位となったそうである。こうなってくると個人でも感染予防のモードにシフトして、結局のところ経済活動は停滞するだろう。もちろん、2年前からの議論の通り。

つまり行動抑制を求めないという政府の方針は、各種補助金を支給しないという点のみが新基軸ということになり、この嵐が過ぎるまでに零細飲食業はほとんど行き詰まることになる。不況の深刻化は来年にかけてというのが大方の見方だが、財政均衡派の目論見に従うことで、大局は悪化するのではなかろうか。

ゴジラ S.P

円城塔による『ゴジラ S.P』のノベライズが発売されていたので早速、これを買い求めて読み始める。もちろん、この作者のことだから普通の小説ではなかろうと思っていたけれど、量子論的宇宙において、1954年のゴジラがコラージュされる冒頭から盛り上がる。すでに彼方の存在となったコミュニケーションAIナラタケの目線から語られる物語であり、アニメ版の履修必須といえ、必然的に物語世界の厚みはいや増すので、これはよいノベライズ。

FRBは6月に続いて2回連続で0.75%の利上げに踏み切る。ハト派のパウエル議長がインフレファイターと言われたボルガー議長と同じような局面に立たされ、インフレ期待の抑え込みに立ち向かわざるを得ない状況自体は明らかで、戦争がもたらすエネルギー不足と資源インフレ、コロナによる労働力の不足と賃金インフレ、加えて物不足と、リスクは下方にしか存在しない。必然的な利上げは債務危機の萌芽でもあるわけで、世界が早期に正常化に向かうシナリオはもう残されていないのではなかろうか。

TAROMAN

後れ馳せながらNHKプラスで『TAROMAN』を観る。岡本太郎を引用した表現には警戒せざるをえないけれど、作品を題材に、岡本太郎本人の言葉をコラージュしてシュールな話を編み、きちんと「展覧会 岡本太郎」の宣伝をしているあたりに好感がもてる。

まず、岡本太郎とウルトラマンの意想外の混ぜ合わせは、同時代性と自由さの多面でうまく馴染んでいて、あまりにも秀逸なので、これを形にせざるを得なかったというのも作品をみるとよくわかる。サカナクションの山口一郎がタローマンマニアとしてコメンテーターの役割で登場するのだけれど、あくまで茶番であり、最後にオリジナルの各作品に少し触れるくらいの塩梅も悪くない。このあたりの配合を間違えると胃もたれするものになっていたと思うのである。

噴火

桜島の噴火は避難を促す警戒レベル5が発出されて一時、緊張感が高まる。今のところ過去の大噴火のようなことを予見させる動向はないようだけれど、『死都日本』の読者であれば漏れなく破局噴火の到来の予感に打ち震えているはずである。

少し前にグリーンランドの氷床が猛烈な勢いで溶け出しているというニュースを呼んだのだが、全て溶ければ海面を7.5メートル上昇させるという話はもちろん直接的な影響として、長くこの土地に加えられてきた重量がなくなることは、どのような影響を地殻に及ぼすのだろうと思ったのである。地球が身動ぎすることによって起きる地殻変動は、溶岩の噴出をともない温暖化ガスをますます増大させるに違いない。

恒常系の破壊による変化は巨大な振幅によって人類を翻弄することになる。ヨーロッパでの山火事に続いてヨセミテの火災も空前の規模となっているようだけど、この夏がいちばん穏やかだったという未来があっても不思議はない。