チャンシルさんには福が多いね

『チャンシルさんには福が多いね』を観る。韓国の映画界を舞台に、長年支えてきた監督の急死によって道に迷うチャンシルさんの日常を描く。ままならない人生の話だから甘くはないのだけれど、テンポがよくてわかりやすい演出なので悪くない。チャンシルさんは小津安二郎のファンなのだけれど、画面には日常系の邦画の雰囲気が濃く漂って、演じるカン=マルグムは小林聡美のような役回り。95分程度の尺でいろいろちょうどいい感じ。

この前日、WHOはサル痘の流行を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態とする宣言を出す。専門家の意見はいまだ割れているようだけれど、基本的には接触感染であるこの疾病の感染者が、米国では1ヶ月に18倍というスピードで2,600人といわれると、いったい何が起こっているのかとやや怯えざるを得ない。今回の流行では、従来と異なる臨床兆候が指摘されていると聞けばなおさら。

20時過ぎ、桜島が噴火。

最多

この日、全国の新規感染確認は初めて20万人を超え、17の道府県で過去最高を更新する。官房長官の感染も伝えられ、同じニュースが濃厚接触者はいないというのだが、最近の記者会見の場でたびたび咳き込む映像が残っているのだから、空気感染の道理にしたがって周囲に感染は広がっているだろう。そういうパニック映画を観たことがないか。本邦を支配しているのは、こんな感じの無理筋っぽさだが、無理である以上は早晩、破綻することになる。

グレイマン

『グレイマン』を観る。マーク=グリーニーの小説の映画化。とはいえ、『ボーン・アイデンティティ』の原作がロバート=ラドラムであるというくらいの話で、キュアラクターもその関係性もかなりシンプル化されていて、原作料の部分は省くことも可能だったのではないかと思えなくもない。そこはそれ、大人の事情があるのだろうが、Netflixオリジナルでも史上最高となる2億ドルの制作費はさすがというべきで、派手なアクションには手を抜いたところがなく密度が高い。プラハでの市街戦のシークエンスは大きな見どころ。

クリス=エヴァンスがロイド=ハンセンの役を演じていて、清潔感のあるサイコパスの役回りが新境地という感じでいい。一方、アナ=デ・アルマスは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』と同じく、主人公を助けるCIAの現場エージェントを演じることになっているのだけれど、ファンからすると、制作サイドはよくわかっているということになる。いい。

Heptabase

そしてこの数日、新しいPKMツールとしてHeptabaseを使っているのである。Y Combinatorのサポートを得たばかりのまだ若い製品で情報の流通が少なく、試用期間なしの年間83.88ドルのサブスクリプションに加入する必要があって、1円が140円という世界では早期割引の適用があっても月間1,000円程度にはなるというあたりが、まず大向こうのハードルになるとは思う。月額料金の設定も用意はされる予定はあるけれど今のところ利用はできない。とはいえ、サービスを育てるための支援と考えれば特に法外な価格でもないだろう。

返金には応じるということなので、まずは使ってみればいいと思う。エディター部分の使用感はMac界隈で台頭しているCraftにごく似た印象なので、ちょっと驚く。同じフレームワークを使っているのだろうか。実はWindowsでもCraftが使えればいいのにと思ったことがあったのだが、このHeptabaseでは同じ操作感のWindowsクライアントをあっさりと実現しているのである。Linuxまで含めたマルチクライアントを提供しているのは大きな強みといえる。

何しろCraftに似ているので、MarkdownではWYSIWYGでの出力表示を実現しているし、現時点でも十分な安定性がある。ローカルのクライアントということもあって、売りものの無限Map機能まで含めて動作スピードも全く問題ない。着々とリリースされる機能の安定性は高く、実用に十分な信頼性があるとみえ、台湾の開発者の仕事だけあって2バイト文字の処理も全く危なげがないのである。

リアルタイムの同期はまだ実装されていないが、Mac/Windowsのアプリがそれぞれ安定して使えるメリットは大きい。End to endの暗号化が入ってくると、もうこれでいいやということになるのではなかろうか。モバイルクライアントも将来の計画には入っているようだけれど、今のところMacとWindowsで満足している。

肝心のワークフローの体験は、メモとカードを別のレイヤーで扱うのが特徴となっている。ジャーナルに書きつけた内容やZettelkastenでいうFleeting noteを踏まえて蓄積すべき知識やアイディアの中核となるカードを作り、Mapでの視覚的な再構成を経て文脈をまとめるという作業は、アウトプットに向けた統合のプロセスをよくイメージできるもので、しっくりくる。最終的には文章でのアウトプットをサポートするための目論見はよく実装されているのではなかろうか。カードのつながりと配置はそのまま文脈の流れともなって、言語化のプロセスとしての合理性は高いと思うのである。とりあえずジャーナルに書き込んでカードにまとめるのはCraftでもできることだけれど、Mapこそ差別化のカギであり、ユーザーにとってはここに価値を認めるかどうかということになるだろう。

今のところ経験した不具合は、Windows版の画面で入力モードに入れないことくらいだけれどデータが失われたということはないし、3人ほどのスタートアップとしては製品の質は非常に高いと思う。順調に成長していただきたい。

過程

COVID-19の新たな感染確認は全国で初めて15万人を超える。昨今の雰囲気からして、もちろんこれは感染爆発の途中段階に過ぎず、ワクチンの効果で自覚のないまま活動を続けているキャリアまで含めると、これに数倍する拡大が起きているに違いない。当局は何ら制約を設けぬままこの夏をやり過ごすつもりだろうが、自然収束まで2ヶ月として、それまでは医療資源も大いに圧迫されることになる。

何しろ、この日、大阪の感染確認は初めて2万人を超えたのだが、同時に検査陽性率は98%を記録して検査不要論を実態が追認するという恐るべき事態になっている。風邪のような症状が出ればコロナという状況で、重体化の比率が小さいという一点にかけて何もしない構えということだろうが、少なくとも現場は状況に圧倒されることになる。

ミャクミャク様

まず、維新の主導する大阪・関西万博など、公共セクターからプライベートセクターに金を引き出すための方便に過ぎないと思っているので、まったくロクでもないものだという認識しかないのである。

この前の日、その万博で「いのちの輝き」と呼ばれてきた公式キャラクターの正式名称が公表される。開幕1000日前のイベントで、これが「ミャクミャク」という名称であると明かされ、Twitterでは日本の土着信仰に結びつけた「ミャクミャク様」の大喜利が始まる。

この異形のキャラクターが真名を得たというのが、斯界の評価である。名前とともに神性を獲得し、これによりミャクミャク様は崇拝の対象となって、皆がその名を唱えるようになった。その名とともに、もたらす怪異が語られ、ミャクミャク様の権威はますます補強されるようである。

万人がまんまと踊って、ついには妖怪ハンター稗田礼二郎の漫画のコラージュまで出回り、まあ、このあたりがオチであろう。十分に盛り上がったということで、これを以って万博完結ということでもいいのではないか。

トスカーナ

『トスカーナ』を観る。デンマークで流行の名店を切り盛りする主人公のもとに、長く疎遠だった父親の死去と彼の遺したレストランについて連絡が来る。売却してしまうつもりでトスカーナを訪れた主人公は、この土地での思い出となっている女性と再会を果たし、やがて人生について考え始める。ごく短い紹介文だけでも既視感があるのだが、美しい南の土地で美味しいものを食べ、人生を見つめ直す系統の映画といえば、まぁ、そんな感じ。微妙にヨーロッパの風味が入っているとはいえ、シンプルなジャンル映画であるには違いない。

海の日のこの日、当地はさわやかな気候で雨も降らなかったのだけれど、日本各地では先週来、梅雨の戻りというべき雨が続いている。記録的短時間大雨情報も珍しくなくなった昨今だが、気温の上昇と同期して、以降はこれが常態となるのだ。