Last Soviet Leader

この日、ゴルバチョフ書記長の死去が伝えられる。若くして指導者となり、連邦の瓦解をみて長すぎる老後を生きたリーダーの訃報に、特に我々の世代はしんみりとするのではないか。クリミア併合に賛成し、目下のウクライナ侵攻に沈黙したことをもってその生を否定する投稿を見たけれど、もはや自ら立つこともままならない老人に向けては要求が厳しすぎると思う。反動としてプーチンを生み出し、数多の批判も受けながら生きたであろう元政治家の晩年を想像する。

小笠原付近に発生した台風11号は、台風12号になりかけた低気圧を吸収しながら西進し、沖縄付近にしばらくとどまって、なんだか不思議な雰囲気の天気図を描く。非常に強い台風が沖縄本島直上に停滞する例はあまり聞いたことがないのだが、これも気候変動の影響なのだろう。

アルテミス計画

そういえば、この前日に予定されていたARTEMIS1の打ち上げ準備をライブで見ていたのである。オリオン宇宙船は、米中の緊張関係がもたらした、思いがけない果実のひとつであり、ドナルド=トランプのほとんど唯一の功績ではなかろうか。アルテミス計画は2024年までに最初の女性を月に送ることを目標としていて、さきに中国が月を周回したことをみれば、冷戦による宇宙開発競争をそのまま再現する構図となっている。

NASAによるYouTubeのライブ中継は予定時刻を過ぎて唐突に30分繰り下がり、ARTEIS1はケネディ宇宙センターに屹立して逆光のまま佇む。結局のところこの日の打ち上げはエンジントラブルで取りやめとなり、次のウインドウは9月に入ってからということのようだけれど、電子機器と情報テクノロジーに、人類と産業全体が異常に傾斜した30年を経て、宇宙に再び還ると思えば熱い。それが、結局のところスペースXの仕事だとしてもだ。

奔流

この夏の終わり。

ひと足先に学校の夏休みが終わった当地では、先週来、学級閉鎖で家にいる子息が発熱して出社できないという話が指数関数的に増えて、いやもう、大変なことになっている。9月以降の都市圏が同様の状況だとすると、現状追認のためにあらゆることが出鱈目な運用になるに違いない。酷い目に遭う人は確率的に発生し、捨て置かれることになるだろう。

長江流域の旱魃は、一転して大雨となり、保水力の落ちた地盤がもたらす水害が心配されているという。一方、パキスタンの洪水は累積的に酷くなり、これまで3000万人以上が影響を受けているというが、ダムの決壊が相次ぐことによって、水害が治れば飲料水の不足が起きるのではなかろうか。

気候変動のもたらす自然の振れ幅は圧倒的である。脆弱な国々の被災が続き、事態の収拾局面では国際金融市場までタイト化しているとなれば、人間界の不安定化も避けがたいようにみえる。

夜、ウクライナ軍による南部での攻勢が始まったとの未確認情報が流れる。

アンダーウォーター

『アンダーウォーター』を観る。クリステン=スチュワートが主演の極限状況もの。深度1万メートルに建設された海底掘削基地が地震により損傷し、取り残されたクルーたちは別の基地に向かおうとするが、得体の知れない生命体が出現してこれを阻む。私企業が極地開発をおこなっている設定と現場の雰囲気は『エイリアン』そのままで、深海に舞台を替えて換骨奪胎を試みようという企画の趣旨は明確だし、速やかに外壁が破断しリグが崩壊していく冒頭のシークエンスは緊張感があって観入る。

謎の生物ではなく圧力によって失われていく仲間という進行も悪くないのだが、原子炉を装備した深海基地が圧壊したり、海底を歩いて移動したりという基本的な設定は、さすがにいかがなものか。水圧の扱いが都合良く見えるので、科学考証にも疑義が残る。一方で存在感控えめかと思えたクリーチャーが、エイリアンでもプレデターでもなく、クトゥルー的なイメージにスケールアップしていく終盤は素晴らしい。なるほど、やりたかったのはこれかと膝を打ったものである。

『鎌倉殿の13人』はサブタイトルが「修善寺」となった第33回。これを「終 善児」と読んだ勘のいいTweetがあったのを思い出して感心したのである。

ザ・プレデター

『ザ・プレデター』を観る。少し前にシリーズの前日譚となる『ザ・プレイ』を観たのだけれど、2018年のこの映画は何となく敬遠していたのである。主人公のスナイパーを演じるボイド=ホルブルックのイメージは、かなり古臭いアクション映画を想起させるではないか。アーノルド=シュワルツェネッガーからダニー=グローヴァーに継いだ流れを受けて何故、正統派の二枚目になってしまうのか。

だがしかし作品のクレジットをみると、初代の『プレデター』にも出演していたシェーン=ブラックが監督で、脚本にも入っているので己が先入観を恥じた次第。何しろシェーン=ブラックといえば『リーサル・ウェポン』の脚本を書いた人で、本作も何かと話がはやく、チープといえばチープな盛り上がりではあるけれど、ジャンル映画としての見せ場が詰め込まれている。107分の尺とはいえ、1987年と1997年のプレデター襲来の経緯まで含めた世界観で語られるし、いかにもB級映画という終わり方にも好感がもてる。

ソウル・バイブス

『ソウル・バイブス』を観る。1980年代、オリンピックを目前にしたソウルで、独裁者として君臨した前大統領の悪行を追及するために走り屋の一団が協力させられる。民主化を決意した韓国が生まれ変わろうとする時代を背景に、捜査協力ものとしての類型をきちんと踏んで、完成度の高いジャンル映画になっている。往時の雰囲気の作り込みは素晴らしい。

そして、独裁者としての全斗煥の後ろ姿を題材にして、「権力を前に民衆は団結する」という映画を作ることができるのが、韓国映画界の背骨の強さであろう。面白い。

総崩れ

実際のところ、盆休み明けから2日に一度は職場での検査陽性が判明しているのだけれど、学級閉鎖となっている子息の発熱で出社できないという事例まで広がって、社会機能の麻痺を実感している。最近では感染拡大のピークすら確認できない状況で、このまま人口の数パーセントが常時罹患という状態を目指すということか。症状がある以上は持続可能な戦略とは思えないが、医療から隔離された一群を作ることによってそれを目指そうというのが現在の目論見とみえる。経験則によれば、あの時ですらマシだったという時点が、やがて来るだろう。