蔓延

お盆休み明けの初日、予想はしていたことだが発熱の連絡がチラホラあって、これを全国のスケールに拡大すればそれなりの波が来ていると見えるに違いない。実際のところ、陽性率が90%もザラというこの状況で、つまり有症状の感染がこれほど増えているというのに、経済のために行動を抑制しないという戦略の合理性は大いに疑わしいというものではないか。全てのツケを負わされている医療現場は、前線で消耗する部隊そのものであり大局的には敗退するとしか思えない。これまでの経験則に従い、拡大期間の2ヶ月を持ち堪えれば放置しても構わないという悪魔的な算段があったとして、その目論見を保証する根拠はないのである。

ナイル殺人事件

『ナイル殺人事件』を観る。ケネス=ブラナー監督、主演による2022年の映画。『ナイルに死す』の発表が1937年である。第一次世界大戦や大恐慌の記憶と地続きのこの話をあらためて映画にしようというのも、ある種の異国趣味に過ぎず、端的にはクリスティの作品が好きだからという以外の理由はないのだろうけれど、幾つもの改変はあるとして、しかし何となく書き割り風のエジプトが逆にアガサ=クリスティっぽい雰囲気を醸し、これはこれで悪くないような気もする。『オリエント急行殺人事件』に続く本作だが、同じ陣容で第3作の製作も決まっているそうだから、ちょっとした人気シリーズなのである。ケネス=ブラナーのエルキュール=ポワロはやや強めの押し出しとはいえ、違和感はあまりない。中学から高校にかけて、ハヤカワの赤背表紙を集中的に読んだことを懐かしく思い出す。つまり、そのような需要があるということであろう。

連休の最終日。この近くではこの時期、比較的に大きな花火が方々で打ち上げられて、家の窓からも望むことができるのだけれど、20時過ぎ、急に降り出した雨にもかかわらずやや大きめの音が鳴っているのに気づいて、次々と夜空に広がる様子を眺める。花火は秋の季語である。

ザ・ハント

『ザ・ハント』を観る。ジャンルとしてはデスゲームの類型に属し、つくりは明らかにB級映画のそれでありながら、富裕層とレッドネックと呼ばれる貧困白人層の対立の構図を持ち込むことで、政治的な風刺の意味合いが濃く映る。人間狩りというよりは、富裕層と貧困層の殺し合いの映画で、リベラルエリートの醜さを持ち込んだところが目新しい。ドナルド=トランプはこの映画を指してレイシストが作ったと批判したそうだけれど、その文脈でこそ興味深い映画であろう。トランプが実際には観ていないことは明らかだが、内容はといえば、どちらサイドの人間も愚かという他ない描き方で、まず身も蓋もない。

NHKで『ビルマ 絶望の戦場』を観る。インパール作戦のあとの司令部の逃亡と孤立した部隊が滅亡に至る1年に取材している。イギリス第14軍の指揮官の言葉は、現代にも通じる本邦の宿痾を看破している。

日本人指揮官たちには根本的な欠陥があるように思える。それは道徳的勇気の欠如である。彼らは自分たちが間違いを犯したこと、計画が失敗し練り直しが必要であることを認める勇気がないのだ

スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け

『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』を観る。ながらく課題図書には上がっていたのだけれど、古参としてはハン・ソロがあっさり死んでしまったあたりでひと区切りついてしまったという気がしていたのである。

いわゆるシークエル・トリロジーの登場人物も嫌いではないのだが、物語はインフレ気味に膨張して、その実は反復であったという気がしなくもない。帝国のテクノロジーには必ず急所がが存在するのだが、中央集権的なシステムの弱点のアナロジーだとしても、やや安直ないつものパターンに堕していたみたい。長尺には違いないとして、何しろ話のスケールが大きいので困難も都合よく片付いてしまう傾向が隠せない。『最後のジェダイ』は展開をわざと捻っているようなところがあったけれど、J=J・エイブラムスに監督が戻ったからか、こちらはそのままの展開なのである。

そして最後は、もちろん共和制的な価値観が勝利するのだが、トランプの時代を経た後にかつてと同じ図式を再現しても、ことはそう単純に映らないのではなかろうか。1月6日、連邦議会を占拠した人たちも、自らを抵抗軍になぞらえていたからには。

デイ・シフト

『デイ・シフト』を観る。ジェイミー=フォックスがロスでプールの清掃員をしながら、たつきのためにヴァンパイアハンターをしているという設定の映画。ガトリングガンが登場する派手なドンパチはあるけれど、典型的なジャンル映画のテイで目新しいところはあまりないみたい。スヌープ=ドッグが大物ハンターの役回りで出演しているけれど、その有難みはよくわからない。

東北北部の雨は降り続いている。先日、記録的な大雨となった石川あたりでも再び多くの雨が降って、台風8号は静岡近辺に上陸する。C100が行われている晴海の待機列に襲いかかる猛烈な雨が話題になっている。

マリグナント

『マリグナント』を観る。ジェームズ=ワン監督の原案によるホラーサスペンスということであれば、通り一遍のサイコホラーであるはずはないと思いながら、どうしたってサイコロジカルな解決に向かうだろうという予想をさせておいてからのフィジカルな解決には、ちょっと笑う。さすがなのである。

主人公のマディソンを演じるアナベル=ウォーリスの腺病質な雰囲気も、そのまま観客のミスリードに効果を発揮していて、全体がよく巧まれている。冒頭から脈絡の見えない急な舞台展開が続くのだが、きちんと回収されるし、警察署を舞台にしたクライマックスもやり過ぎ感があっていい。今や廃虚となった医療施設で行われていた実験の因縁を扱うホラー映画のジャンルがあるけれど、今になってこれに新たな形態を付け加えたという意味でも手柄ということになろう。面白い。

ルビー・スパークス

久しぶりに『ルビー・スパークス』を観る。この映画から、もう10年も経つと思えば遠い目になるというものだけれど、ライターズブロックものの映画としては以降、これを越えるものは出ていないわけである。閉ざされた世界のはなしであることは違いないので、今なら多様性のなさ自体が忌避されるような気はするものの、好きなものは好きなのである。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は大団円手前の第14話。相変わらず脚本のバランスがいいので安心して観ていられる。本国でも人気という話を聞くので、これはシーズン2も考えてもらえないだろうか。