併合

この日、プーチンはウクライナ4州の併合を宣言する。好むと好まざるにかかわらず、歴史はこのことを記憶するだろう。G7はこれを「もっとも強い言葉で」非難し、プーチンはウクライナの頭越しに欧米への呪詛を演説する。政権移行から間もない英国は、オウンゴールともみえる経済金融政策の稚拙で失速し、同盟の失態の穴を埋めるように米国の統合作戦司令部がドイツに進駐する予定であることが伝えられる。

ノルドストリームでのガス漏れは短期的に事態が沈静化するのではないかという楽観派の希望の芽を摘み、この冬のエネルギー価格の高騰を決定的にする。もとからほとんど100%であったリセッションの確率は、これを回避し得るシナリオを織り込む余地をほとんど失ったとみえる。よくならないという理由ゆえに悪化は続く。

ウクライナはNATOへの迅速加盟を正式に申請し、互いが設定したレッドラインを踏み越えた時間帯に世界はある。後世の歴史家が第3次世界大戦の始まりを記述するとすれば、このあたりになる可能性もある。

Ian

フロリダにカテゴリー4のハリケーンが上陸して、秒速70メートルに迫ろうかという風と高潮による洪水をもたらしてゆっくりと半島を横断する。半島全域を覆う大きさが確認できる国際宇宙ステーションからの写真はパニック映画でよく見る絵面で、我々が世界の終わりの始まりに立ち会っているのではないかという感慨を再び呼び起こさずにはおかない。おそらく、地球温暖化が気候変動をもたらしていることについて懐疑的なひとが相対的に多いのではないかというフロリダだけれど、この現象はどうしたって気候変動の結果なのである。人間の認知的不協和は、実際の因果をみてなお、それを信じないように機能するものではあるけれど。

そしてノルドストリームで起きているガスの漏出事故は、破壊工作によるものという見方が日を追って強まる。ここから大規模に漏洩したメタンガスは、CO2の80倍の温室効果をもつといわれるが、本日現在でなお大気に放出が続いているようだから、これは気候変動対策における大惨事でもある。遠い因果律の果て、我々は誰もがこの影響を受けるだろう。

オリバーな犬 第5話

『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』の第5話を観る。何がしたいのという松たか子の問いを思わず復唱したくなる大団円一歩手前。引き続き不思議なリズムと観客の忍耐を試すような小ネタの積み重ねが面白いのだけれど、これは脚本と演出に編集まで手がけているオダギリジョーの手柄というものだろう。楽しい。

Typed

プロダクティビティはカルトであるという意見に深く首肯しつつ、生産性ツールが好きなものだから新しい製品には割と食いつくほうである。Googleアプリと連携したTyped.doというサービスが紹介されていたので早速、弄って、なるほどと膝を打つ。Googleドキュメントやスプレッドシートをそのままラッピングして、ワークフローに沿った機能を付加するようなサービスで、中核機能の開発を迂回して顧客体験に集中するという点では良い戦略ではなかろうか。もちろん依存ゆえの不安定はあるとして、最後はGoogleに買収されるところまで含めれば、スタートアップに好適だと思うのである。肝心のサービスもドキュメンテーションの作業をよく考えたもので、速度の問題はややあるとしても、なかなかいい。

ノルドストリームの海底パイプラインで破壊工作ともいわれるガス漏れが発生してデンマーク軍が撮影した海面の様子が伝えられる。海原に気泡の広がる様子は禍々しくはないものの、災厄の大きさを感じさせる規模で、ことの帰趨は人知を超えつつあるのではないかという気がしてならない。

この日、国費で武道館を借り上げ、老人がポエムを読み上げるという催しが開かれたようだが、その正当化に報道機関がこぞって取り組んでいる様子が伝わって国の衰微を知る。

急落

この日も株式市場の大幅な下落が続く。金融市場がわずかでも先を見通すというのであれば、どうしたって厄介なことになるに違いないのである。日本の金融当局によるさきの為替介入は、どうやら速やかになかったこととなって、当局者は無力を痛感し、それ以上に心細く思っていることだろう。直近のポンドの急変を不吉なサインと捉えるのはブラックマンデーの記憶をもつベテランということになるが、まさにそれゆえ、自己実現的に市場は動揺することになるだろう。この局面での質への逃避は、ドルと資源に向かい、さらなる高騰をもたらすのではなかろうか。

同日、イタリアでムッソリーニ以来の極右政権が誕生し、事態は混迷を深める。

台風による断水の影響は広範に及び、復旧の目処も未だしというこの日、ニュースの冒頭は「弔問外交」である。ことがこれほど拗れていなくとも、主要な関心ごととして焦点をあてるような話ではないはずだ。『ビルマ 絶望の戦場』で引用されていたがごとく、我が国の政治の根本的な欠陥は過ちを認める道徳的勇気の欠如であろう。その上塗りにほとんど積極的に加担しているメディアも同罪というほか言葉がない。メディアと報道の独立性に問題があるとされる国では、こういう景色をみる羽目になるということだ。

オンベレブンビンバ

『鎌倉殿の13人』第37回は界隈を騒然とさせていた「オンベレブンビンバ」というエピソードタイトルの謎が明らかにされる。どのような由来のものであれ、劇中での言及がなければそれが何かを明らかにするのは不可能だろうと、関心はどのような文脈で使われる言葉なのかというところにあったのだが、まさか大姫を思い出すよすがであったとは。家族が家族として集まる最後の宴を見届けて次週、牧氏事件に決着がつく。

Disney+では韓国ドラマの新シリーズが開始される時期らしく、『ゴールデンスプーン』以外にも『弁論をはじめます』『わずか1000ドルの弁護士』という弁護士もののドラマが始まっている。格差・財閥・法曹というあたりがベン図を描いてジャンルを形成し、これにウェブトゥーンを原作にもつという感じで量産のスタイルは決まっているようである。何しろ役者もどこかでみた人が多いから、うかうかすると話が混ざってしまう。いいとか悪いとかではなく、そうしたシステムなのであろう。そのボリュームがあってこそ、ときに大傑作を生み出す業界が成立しているのである。

この日、来日を予定していたカナダのトルドー首相が国内のハリケーン災害を理由に「国葬」を欠席することが伝えられる。国内は台風15号の被害で大規模な断水と停電が続き、片付けもままならない状況で、本邦の首相は「弔問外交」だそうである。カナダのドタキャンで、要人という要人はおらず、いよいよ不人気な飲み会みたいになっているのだが。キー局はおしなべてこれを中継するという話で、マスメディアの凋落もここに窮まる。

ゴールデンスプーン

Disney+で配信の始まった『ゴールデンスプーン』を観る。金の匙というタイトルで、韓国の階級社会を正面から扱おうというドラマである。かなりの鬱導入なのだけれど、ユク=ソンジェが簡単に折れない雰囲気のある主人公を演じていて何だか見入る。原作はウェブトゥーンらしいのだけれど、貧乏な家の子供と金持ちの家の子供が金の匙の力で入れ替わるという話を大真面目にやっているのがポイントであろう。格差社会ものというのは韓ドラの一ジャンルとして確立していると思うけれど、現在配信中のものでは『シスターズ』の評判がいいのでこちらも観てみるつもり。

この日、BBCはエリザベス女王の国葬費用13億円に対して安倍16億円の概算という内容のニュースを伝える。比較対照は実証の基本だが、ここに可視化されるのは民主主義のレベルの違いであろう。