無法

何だかよくわからない理由で留め置かれていた犯罪が、急に動き出すところをみると、そこには都合の悪い事情があって司法の動きが堰き止められていたのだろうと察しがつく。何しろ改めて伝えられる証拠は、新たに出てきたものでもなく、それどころか悪代官の横死のあと、ひょっこり出てきたものだというのである。

この国のシステムが、ほとんど骨抜きというところまで駄目になっているというのは残念ながら事実のようである。残ったわずかな自浄作用が、不自然を承知しながら修正を試みる過程に今はあるようだが、このほかにも澱みは残っているに違いあるまい。

君の名は。

Netflixで『君の名は。』が配信されていたので、ついこれを観てしまう。前回観たのが2018年のことらしいので、トリッキーな展開もそれなりに新鮮な気持ちで楽しむことができたのである。クライマックスの盛り上げ方はやはり格別。2016年は傑作の多かった年なのだが、いい感じに記憶も遠ざかっているので、再読の愉しみも多いというものである。

『鎌倉殿の13人』第41回は和田合戦の顛末が語られる。和田義盛の立ち往生を壮絶な見せ場として、大江広元の立ち回りが挿入されている遊びには笑う。いや、笑うような流れではないのだけれど。実朝が政について朝廷を頼ろうと決意して、またも不穏の種が蒔かれる。来る最終回では、源三代を殺めたのは結局のところ北条義時であったことが明かされるのではなかろうか。

展望

ローレンス=サマーズはインフレの見通しについて、あまり楽観的なことを言わない感じだけれど、最近も8%を超えて高まったインフレ率が急速に下がっていくだろうとするコンセンサスは、1970年代の様子からは著しく楽観的であることをあらためて指摘している。おそらくその通り。そしてここから先は、失業率の高まりと賃金低下の圧力を確認しなければならないのだから、長く厳しい時間が続くことになる。

一方、日本はそもそもインフレ期待の喪失をかれこれ30年も問題として抱えているのだが、超低金利下での消費をはじめとする重税化や非正規化による構造的格差の導入を、処方箋として採用しようという国がないのはどうしたことか。

西部戦線異状なし

Netflixで配信の始まった『西部戦線異状なし』を観る。言わずと知れたレマルクの小説を原作とした2022年の映画。映像化としては1930年のリュー=エアーズが主演した映画が有名で、すでに一世紀近い年月が流れて何故、今さら再映像化なのかと問えば、それなりの時代的背景がある気さえする昨今。全編、ドイツ語の本作は、無論のこと近年の映像技術によってリアルに振った質感で、死も克明に描かれる。

冒頭、森の中で命を育む狐の親子と戦場の死者たちの対比に始まり、スケールを感じさせる光景と自然に属するものごとは美しく描かれるけれど、人間をすり潰していくシステムは、戦場の後方から前線に向かい、無関心か、嘘や煽動によって機能する。このあたりがいちばんの見どころかもしれず、1930年版であればラストシーンにあたるような無常感は全体に配置されている。映画としての文法は近年のもので、主人公パウルの死さえ、ある意味で特権的に描かれるのである。劇中、半世紀、戦争がなかったというセリフがあるけれど、この映画を作った世代は戦争というものを知らないのだということを強く感じさせるのは、実はこの劇的なラストのシークエンスかもしれない。

王道

『君の花になる』の第2話を観る。あらかじめ予想されたことではあるけれど、ちょっと懐かしい少女漫画にみられたようなお約束を満載して、逸脱したところの全くない展開で、あまりにもわかりやすいので、これはこれでありというほかない。マンゴー味のカルピスまで試して、やはりオリジナルが一番であるというような清々しさがある。

『チェーンソーマン』の第3話を観る。米津玄師の『KICK BACK』が流れるオープニングは『レザボア・ドッグス』をはじめとするクライムムービーのパロディで構成されているけれど、秀逸なのでスキップしないで毎回観てしまう。かっこいい。一方、未だに原作を読んでいないので、悪魔の強さは想起する言葉のイメージで決まるというセリフに膝を打っている。どうしてチェーンソーなのかという謎が解けた思いだが、では、ポチタはどうだったのか。

Doomsday Clock

この日、プーチンが核戦略運用部隊の演習を視察したと伝えられる。結局のところ核兵器が使われることはないだろうという見解に合わせて、ただし核のリスクはかつてないほどに高まっているという言葉が添えられる状況に我々はいる。Bulletin of the Atomic Scientistsの表紙を飾る世界終末時計は2020年以降、100秒前に止まっているが2023年の表紙が何になるのか気になる。前回の進捗がイランとアメリカの緊張を反映していたとすれば今回は一層、深刻なステージに進むはずだけれど、山積する問題の評価を踏まえれば、人類が既に終末後を生きている可能性もある。

エルピス

『エルピス -希望、あるいは災い-』を観る。冤罪報道に取り組もうと奮闘するバラエティ番組の制作者という物語の設定からは、ちょっと思いもよらないほど面白いのでびっくりしている。さすが、渡辺あや脚本。そして、プロデューサーは『カルテット』の佐野亜裕美、筆頭の監督には大根仁、音楽に大友良英というからまず、豪華な布陣なのである。

「飲み込みたくないものは、もう飲み込まない」という長澤まさみはもちろんいいし、三浦透子の凄みにも感心するのだが、眞栄田郷敦による自己肯定感の高い、しょうもない男の語りが、やけに味わい深い。圧倒的な目力を押し出した、ふざけた存在感もいいし、不穏な奥行きも垣間見せて第1話としてのヒキは十分。今クール最大の収穫になるのではなかろうか。