イニシェリン島の精霊

『イニシェリン島の精霊』を観る。『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーの監督・脚本作品。アイルランドにある荒涼とした孤島での二人の些細な諍いが、ついにはどこか、かの国の内戦を想起させる衝突に向かう。画面には老婆の姿をした死神が徘徊し、唐突で、しかし確固たる意思にもとづく暴力が人を傷つけていく。その騒動を動物たちは静かに見守って、全体に神話的な雰囲気が色濃くなる。

コリン=ファレルとブレンダン=グリーソンが、それぞれの頑なさと執着で押し問答をしているだけの話が、もちろんそれだけにとどまらないのがマーティン=マクドナーの映画というものである。本作はもともと、先行する舞台劇の続きとして構想されていたという話だけれど、水平的な島の風景は映像としてもなかなか見応えがある。